新/春/座/談/会/ 琵琶湖のためにも原発に頼らない

■平成28年1月1日(金) 第17385号

=新しいエネルギー社会づくりへ=

菜の花プロジェクトの拠点である「あいとうエコプラザ菜の花館」(東近江市)。道の駅あいとうマーガレットステーションを訪れた人たちが菜の花畑を楽しむ

希望の星の再生エネ

 平成二十三年三月十一日の東日本大震災により東京電力の福島第一原子力発電所で発生した原発事故から、この三月で五年を迎える。近畿一千四百五十万人の水源である琵琶湖を抱える滋賀県は、原発に依存しない新しいエネルギー社会づくりに向け、この三月に「しがエネルギービジョン」の策定を行う予定だ。その中心を担うのが、太陽光発電やバイオマス発電など再生可能エネルギーである。そこで滋賀県知事の三日月大造さんをはじめ、再生可能エネルギーに取り組まれているみなさんにお集まり願い、新しいエネルギー社会の道筋を語り合ってもらった。【司会・文責=石川政実、写真=畑多喜男】

司会 県は昨年十一月、原発に依存しない新しいエネルギー社会を見据えた「しがエネルギービジョン」の素案を公表したが、それによると太陽光発電やバイオマス発電など再生可能エネルギーを平成四十二年(二〇三〇年)に現行の計画から約四割上積みして百五十四万キロワットにする一方、同年の電力消費量を二十六年比で一〇%減の目標を示し、省エネにも重点を置いているが、新しいエネルギー社会づくりについて三日月さんにうかがえますか。


三日月大造(みかづき・たいぞう)氏。京都府生まれ。大学卒業後、JR西日本入社。15年に衆議院議員初当選(4回)。国土交通省副大臣などを歴任。1昨年、県知事に就任。44歳。

三日月 東日本大震災(3・11)に伴う東京電力福島第一原発事故を経験し、原発に依存しない新しいエネルギー社会をできるだけ早く実現することが求められています。そうした社会の実現に向けて、ビジョンの素案では、エネルギーを『創る』(再生可能エネルギー)、『減らす』(省エネ・節電)、『賢く使う』(効率的活用)、『支える』(産業振興・技術開発)という四つの基本方針を掲げました。
 このうち再生可能エネルギーの取り組みですが、三つの点で意味があります。一つは、温室効果ガス削減と原発依存をなくすという二つの両立を図り、地球規模の課題に対応していく意義です。
 二つ目は、水力・火力・原子力発電の大規模集中電源型に過度に依存すると、どうしても県外にお金が出ていきますから、県内で消費するエネルギーを地域で生み出し、お金を循環させて地域経済の活性化につなげることです。
 三つ目は防災力を高めて強靭化(きょうじんか=レジリエンス)を図っていくこと。このためにも電力消費量を減らして賢く使いながら、再生可能エネルギーを増やし、原発などの比率を限りなくゼロに下げていくことを目指します。

藤 井 一次産業とエネルギーをつなげ
安 田 工業団地等で電力自由化対応を
三日月 オール滋賀で新しい豊かさ実現


 司会 下村さんは県内初の本格的な木質バイオマス発電や姉川ダムの水力発電に取り組まれていますね。


山室木材工業(株)のグループ企業である「いぶきグリーンエナジー(株)」が設置した県内初の本格的な木質バイオマス発電所(米原市)

 下村 「いぶきグリーンエナジーバイオマス発電所」を始めてもうすぐ一年になります。最大出力は三千五百五十キロワットで、一般家庭なら六千六百世帯分をまかなうことができます。森林資源については住宅や木材製品に有効に使われており、当社は使い道がなくなった廃木材や建築廃材などをバイオマス発電で熱に回収し、電気をつくったりしている木材リサイクル会社です。
 姉川ダムは地元にありますから、県が水力発電の事業者を募集された時、地域貢献のために手を挙げました。当社は水力発電に関して素人なので、日本で最初の水力発電事業をしているイビデンエンジニアリング(株)(岐阜県大垣市)と共同で「いぶき水力発電(株)」を昨年三月に立ち上げ、現在、十一月の稼働に向けて準備を進めているところです。お話に出ているエネルギーミックスの問題ですが、県の森林面積は県土の半分に上っており、これをなんとか利用できないかと思っています。
 県では現在、琵琶湖森林づくり基本計画の見直しを進められており、平成三十二年度の県産材を昨年度の約倍の十二万立方メートルにすることを目標にされていますが、県産材の増量見通しが確実になれば、当社が主に北海道の松材を使用して木製パレットを年間七十万枚製造している分の約半分については県産材に切り替えたいと考えています。

 司会 溝口さんは二十五年から地元福祉施設や民間企業との連携による「コナン市民共同発電所」を始められていますね。


イモの空中栽培で水をやるスタッフの大ちゃん(湖南市)

 溝口 昭和五十六年に障がい者の就労の場として清掃会社「(株)なんてん共働サービス」を湖南市に設立しました。平成九年に京都で開催されたCOP3(国連気候変動枠組み条約締結国会議)に向けて、市民として温暖化防止でなにかできないかと、会社の屋根に太陽光パネルを設置して県内初の「市民共同発電所」を始めたのがきっかけです。この時のベースがあったので、市の緑の分権改革事業の一環として食と福祉とエネルギーをつなげた取り組みである「コナン市民共同発電所」を立ち上げました。
 一号機(二十キロワット)は障がい者支援施設、二号機(百六キロワット)は市内の運送会社の屋根に設置しました。
 これにあたって、市には地域エネルギー課を設置してもらい、市議会では地域の自然エネルギーは地域で活用することを理念にうたった「市地域自然エネルギー基本条例」を全国に先駆けて制定していただきました。市商工会にも域内循環型の地域振興券商品券を発行してもらうなど、全市的な取り組みが進んでいます。地域商品券は二年分を配当しましたが、ほかにも互助会や自治会の景品に使うなど広がっているようです。



 司会 冨田さんは、おひざ元の東近江市の「ひがしおうみ市民共同発電所」に関わっていますが。


冨田正敏(とみた・まさとし)氏。愛媛県生まれ。平成14年に滋賀報知新聞社社長に就任し、現在に至る。(社)日本地方新聞協会会長、(社)滋賀県新聞連盟代表理事。66歳。

 冨田 市民団体が平成十五年四月に六キロワットの市民共同発電所「太陽の恵み一号」を設置しましたが、売電収入は現金で分配され、分配金が市域外で消費されるなどの問題点が指摘されました。そこで「東近江モデル」と呼ばれる仕組みをつくりました。二十一年度事業として市民共同発電所二号機を「FMひがしおうみ」の屋上に発電能力四・四キロワットの太陽光発電システムを設置して発電し、出資者には地域商品券「三方よし商品券」で還元しています。
 さらに二十五年には、八日市商工会議所と東近江市商工会が出資して、資本金一万円の株式会社「SUN讃PJ東近江」を設立して、県平和祈念館(東近江市)の屋根に市民共同発電所三号機を設置しました。同年に三回にわけて発電パネルを増やして、最終的には四十一・八キロワット(私募債百八口=一口十五万円)となりました。二号機や三号機は、売電益を全て東近江市しか使えない地域商品券「三方よし」で還元しているわけです。
 とくに三号機は太陽光パネルが東近江市産、運営母体は地元、金融機関も地元と、オール東近江で取り組んでおり、二十年間にわたって毎年配当する計画になっています。地域で生まれる地域のエネルギーの売電益は地域商品券で還元することで、地産地消が成り立っているんです。
 要するに地域に降り注ぐ太陽の恵みは地域の財産ですから、地域にお返しすることを理念に掲げています。

 司会 藤井さんは、全国に知られる“菜の花おばさん”ですが。


藤井絢子(ふじい・あやこ)氏。横浜市生まれ。昭和46年から守山市在住。地域生協(湖南生協)、環境生協などにかかわり、琵琶湖に向かい続けている。69歳。

 藤井 私たちの活動は、昭和五十二年(一九七七年)に琵琶湖で赤潮が発生したことを受けて市民が立ち上がった“せっけん”運動からです.水環境再生でも、エネルギーでも、原発問題でも、琵琶湖とどう向き合うかがテーマでした。
 平成四年(一九九二年)にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットで初めて地球温暖化問題が議題に上りました。これまで主に水環境の再生に取り組んできましたから、「市民はどう温暖化に向きあうのか?」とヒントを探しにドイツへ行きました。そこで驚いたのは、すでに七〇年代に、化石燃料からナタネを原料とするバイオ燃料への転換を試行していたことです。ドイツで菜の花に出会って、菜の花は食べるだけではなくてエネルギーにもなるという発想には目からうろこが落ちる思いでした。
 ならば私たちは、回収している天ぷら油(廃食用油)をバイオ燃料(BDF)にしようと、旧愛東町(東近江市)で始めたのが“菜の花プロジェクト”でした。そして十四年、国のバイオマスニッポン総合戦略のなかでも、菜の花プロジェクトはモデルプロジェクトになっていきます。

下 村 バイオマス発電で若者雇用創出
溝 口 ひとを生き返らせるイモ発電
冨 田 「三方よし商品券」で地産地消へ



 司会 この四月から始まる電力小売全面自由化などで再生可能エネルギーを取り巻く状況がかなり変わってきますが、今後どのように進めていったらいいのか安田さんにうかがえますか。


安田昌司(やすだ・まさし)氏。大阪府生まれ。京都大学工学部、同大学院卒業後、大手電機メーカーに入社。研究所長、経営企画室長を経て、20年に県立大学教授。京都大学博士(工学)。60歳。

 安田 二十四年度に県がとりまとめた「再生可能エネルギー振興戦略プラン」では、総量としてエネルギーがどれくらい県にあればいいかにスポットがあてられていました。しかし3・11を経験し、安定して安く電気が得られること以外に、滋賀県のように大規模発電所を持たない地域が停電になった時にどう備えるかの議論をしておく必要が生じています。
 県では、グリーン・ニューディール事業(公共施設への再生可能エネルギーの設置)として、大規模避難所へ十五キロワットぐらいの太陽光発電と十キロワット時の蓄電池の整備を進めていますが、今後、過疎地などで広く効率よく配置するために小さな自立電源、自立発電所を配備するべきです。太陽光発電はもう少し小規模なものに、バイオディーゼルも発電機として見直していくべきだと思います。
 また電力自由化に対しては、太陽光発電の普及で系統が不安定になる問題も考慮し、蓄電池あるいはスマートコミュニティ化で賢く使って省エネに努めると同時に、市町や工業団地ごとに取り組んでいけばいいですね。


自然の恵みで地方創生


 司会 これからは人口減少問題、いわゆる二〇四〇年(平成五十二年)問題が深刻になってきますが、これに対し再生可能エネルギーを活用した地方創生についてうかがえますか。


溝口 弘(みぞぐち・ひろし)氏。昭和56年に(株)なんてん共働サービスを設立。平成9年に市民共同発電所てんとうむし1号、24年に一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクト、26年にこなんイモ・夢づくり協議会の立ち上げに参加。68歳。

 溝口 今年度中には、コナン市民共同発電所の三、四号機を湖南市内に設置する予定です。しかし、太陽光パネルを使った市民共同発電所は出資が基本ですから、実は障がいのある人は直接エネルギー事業に参加できないだけに、「なにかが足りない」とずっと思っていたんです。
 そんな時、近畿大学の鈴木高広教授に「イモが日本を救う」のテーマで講演してもらいお話を聞いたんですが、「これしかない」と納得しました。
 来年度から要支援の人が介護保険から外れますので、それも含めて、生きがいや障がいのある人の就労のために、イモの空中栽培に取り組んでいるところです。お年寄りや障がいのある人が土づくりから始めて苗を挿(さ)したり、水をやったりと、いろんな作業が生まれています。市には二十八年度中に道の駅が完成しますので、そこにハウスで作ったイモを売ったり、体験農園をやったり、イモ発電を使った足湯をやったりしたらどうかといま提案しています。イモ発電は人もまちも生き返らせる地方再生としての可能性が非常に高いですね。

 司会 下村さんもエネルギーの生産と地域活性化について熱心に取り組まれていますね。


下村和幸(しもむら・かずゆき)氏。大学卒業後、木材加工会社で経験を積み、平成17年に山室木材工業株式会社の代表取締役に就任している。46歳。

 下村 地方創生のために、エネルギー政策を盛り込んで若者の雇用の場をつくっていくことが重要です。化石燃料を使っている地域の病院や老人ホームなどを、木質バイオマスを利用して再生可能エネルギーに転換し次の雇用を生めないかと、現在、地域行政との連携について検討しているところです。
 もう一つの当社の取り組みは、まだ採算に合っていないですが、木質温室ボイラーを利用して南国フルーツのマンゴーを育てることです。一応、昨年は収穫できました。今年からは商業ベースに乗せて地域の名産品にしようと、若い女性スタッフらが取り組んでいます。
 滋賀県は県土の半分を森林が占め、まだまだ利用可能な木材資源があると考えています。林道などのインフラ整備を含め、もっと県産材の増量が進めば、その中で林業従事者も増えてくるはずです。
 とくに木質バイオマス発電は、三、四か月に一回、完全に炉を止めて清掃や修理などのメンテナンスが必要になります。そこでも雇用が生まれます。さらに県産材で燃料を供給しようとすれば製造工場が必要になります。バイオマス発電は採算に乗ってくるかが一番の問題ですので、官民、地域の“オール滋賀”で一定の利益を生む仕組みをつくることが必要です。

 藤井 なにか二〇四〇年問題は地方が消えていく感じで言われていますが、そうではなく逆に地域が生き生きとなる時代だと考えています。ドイツのバイオエネルギー村などを歩いていると、「なんでこんな小さな地域が元気なんだろう」と思います。元気な理由は、一次産業とエネルギーをつなげているからです。一人のひとが農業・林業もやるし、農業の現場でエネルギーの生産もやる。滋賀で考えると経済自立は森林だけでは難しい、農業だけでも難しい。だから農業生産者がドイツのように地域に根差し、エネルギーもつくることが大事なんです。それこそが滋賀の新しい豊かさにつながるのだと思います。
 3・11で被災地のガソリンスタンドが全部ストップした時に、私たちの全国の仲間がバイオ燃料を東北に送りました。バイオ燃料だけでなく、滋賀だからできることがたくさんあります。森林や耕作放棄されている農地は、もったいない。社会に出番がない人たち、仕事に満足していない人たちが地域に数多くおられます。その人たちがエネルギーにかかわり、新しい社会を作っていければ、二〇四〇年は滋賀の勝ちでしょう。

 冨田 二十二年に県内で唯一、東近江市が経済産業省から「次世代エネルギーパーク」に認定されました。当時の認定数は三十三か所でしたが、現在は五十六か所に増えています。この「次世代エネルギーパーク」は地域住民が様々なエネルギー政策を促進するモデル地域であり、近年では奈良県などが県を挙げて取り組んでおられます。
 自然豊かな滋賀県は県内全域を「次世代エネルギーパーク」として取り組み、各地域で様々な新エネルギーを生み出すことで、エネルギーの地産地消により地域から富の流出を防ぎ、地方創生につながっていくと思います。

 司会 安田さんは県のエネルギービジョンの素案作りにかかわられているが、どんなことに力点を置かれましたか。

 安田 まず地場産業にしっかり発展してほしいというのがあります。キーワードは電力の自由化にどう対応するかです。個人が一対一で対応しても、少し安く買うぐらいしかならない。そうではなくて共同して電力をつくって売る、あるいはみんなが同じ会社から買えば値段交渉がうまくできます。県内には湖南工業団地をはじめ企業インフラである工業団地がたくさんありますから、同じ敷地の事業所が連携して分散電源化していくべきです。そうなれば停電時のセキュリティも高まり自由化にも対応できます。ドイツでは市町レベルで発電設備を持ち、新電力と対峙して価格交渉をしています。滋賀県は似たような規模の市町が多いので、まず一か所どこかの市町で取り組めば、それがモデルになって広がっていきます。生協、農協などのコミュニティー単位でもできるはずです。
 それと天然ガスをうまく使うことです。幸いガスの配管が姫路方面と三重方面の両方から来ており、セキュリティーが高い。また三日月知事は燃料電池で水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーで走る燃料電池自動車を公用車に使用しておられるが、水素をつくる時に天然ガス熱分解も一つの方法ですし、太陽光を使って水を電気分解することもできます。いまは水素ステーションで補給していますが、将来的には水素製造も地産地消でやるべきだと思います。

 司会 最後に三日月さんにまとめていただきますか。

 三日月 これからは「どこに住むのか」「どこで老いるか」「どこで最期を迎えるか」をもっと選べる、あるいは選ばれる時代だと思っています。交通が便利、自然が豊かといったことに加えて、その地域が周りの人たちと一緒にどんなことをしているのかが問われます。確かに人口は減少しますが、藤井さんのお話のように、人口急増時代の方こそ、むしろ問題が多かったわけで、人口減少時代にあってはもう一度、自然と人とのつながり、人と人との絆を見直すべきだと思います。山を切り拓いて宅地にしてきたけれども、これからは自然と共生したまちづくりにしようとか、琵琶湖を埋め立ててきたけれど、もう少し環境を取り戻そうとか、そんなことを覚醒させてくれる時代に入ったという位置づけで施策を進めていきます。
 地方創生については、「滋賀エネルギーイノベーション(革新)」と位置づけて、安田さんのお話のように工業団地全体で取り組むとか、技術面では一定の温度を保っている下水熱や地中熱、さらにはバイオマスなどの可能性を見出しながら産学官民のネットワーク化を図り、オール滋賀で新しい豊かさを実現していきたいと思います。


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