近江商人ゆかりのお江戸日本橋に

■平成29年1月1日(日) 第17693号

=「首都圏情報発信拠点」開設へ=

県は10月、東京都中央区日本橋二丁目に「首都圏情報発信拠点」を開設する。赤木屋ホールディングス(株)が建設中のビル一棟を10年間借り上げる。写真は工事中のビル(写真提供=県)

 今年は、滋賀の「観光」にとって千載一遇のチャンスである。昨年十二月に「長浜曳山祭」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されたのに続き、今年に入っては、この八日からNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」が始まり、さらには「国宝・彦根城築城410年祭」、「琵琶湖周航の歌」誕生百周年記念イベントなど目白押しだ。国内外から観光客を呼び込むために、「滋賀らしい観光」や幅広い組織態勢づくりにどう取り組めばいいのか、滋賀県知事の三日月大造さんをはじめ県内の観光に携わるオピニオンリーダーの皆さんに滋賀県公館へお集まり願い、新春に語り合ってもらった。
【司会・文責=石川政実・写真=久田元田】

ブランド力

 司会 民間調査機関「(株)ブランド総合研究所」の昨年の都道府県別魅力度調査結果でも、滋賀県の認知度が三十三位(前年四十一位)とまだまだ低いですが、今後、観光をさらに伸ばすために、滋賀のブランド力やイメージをどう高めればいいのでしょうか。


三日月大造(みかづき・たいぞう)氏 京都府生まれ。大学卒業後、JR西日本入社。平成15年に衆議院議員初当選(4回)。国土交通省副大臣などを歴任。26年、県知事に就任。45歳

 三日月 一つは、滋賀県には素晴らしい観光素材がたくさんあります。もっとわれわれ県民は自信をもって発信すべきです。二つ目は、ブランド力の再定義を促したい。「住みよさランキング」では県内市町は高位にランクインされており、「これこそがブランド力だ」と。三つ目は、世界に向けたブランド力の創造と発信です。 
 このため十月に、滋賀が体感できる「首都圏情報発信拠点」を近江商人とゆかりの深い東京日本橋に開設します。平成三十二年開催の東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れたものです。

 司会 佐藤さんは「おごと温泉」のイメージアップやブランド力向上に力を注いでこられましたね。

 佐藤 おごと温泉の事例で言えば、構成員全員が徹底的に話し合って、最大の魅力である温泉・旅館を前面的に打ち出し、駅名改称や各旅館の設備投資などで魅力を引き出す努力を重ねてきたことがイメージアップにつながりました。有るものの価値を高め広げるために、メディアなどを活用して認知を深めることに尽力した結果です。そこには構成員全員が同じことを発信し伝えてきたことが挙げられます。おごとには「良質な温泉、各旅館それぞれの特色、チームワークと団結力がある」と。滋賀のブランド力向上も、県や各市町が地域の魅力に磨きをかけて一致団結して粘り強く発信することです。また首都圏拠点については、存在意義に理解を深めて多くの人が訪れ、その良さを伝え続けることが望ましいと思います。


吉見 精二(よしみ・せいじ)氏 京都府生まれ。ジェイティビー退社後、平成15年に地域観光プロデュースセンターを設立。現在、内閣官房地域活性化伝道師。日本エコツーリズム協会理事などを務める。73歳。

 吉見 各都道府県のアンテナショップは、東京の銀座・有楽町・日本橋に集中し激戦区になっているんです。この中で、滋賀県が日本橋に情報発信拠点を設けられるのは素晴らしいことですね。その際には、ぜひほかのアンテナショップと交流を深めていただきたい。江戸時代なら知事は大名です。参勤交代で江戸には大名屋敷が建ち並び、諸侯同士が交流して交易が生まれ、文化を持ち帰ったわけですから。
 また北海道と東北八県は連合して香港に出店したり、新潟県はロシア極東のウラジオストクやハバロフスクに力を入れたりしていますが、このように大胆な将来設計をしてほしいですね。

 川戸 東京での情報発信は、バランスよく進めることです。首都圏拠点は、ただ単なる「地産他消」のアンテナショップでなく、滋賀県に来て味わってもらう「地産来消」、地域の商品を地元の人が楽しむ「地産地消」、これに“三方よし”の精神を反映した商品や物語を東京に置くことです。日本橋は近江商人ゆかりの地ですから、情報の卸問屋を東京につくるという心意気でやっていただきたいと思います。

 冨田 同感です。首都圏拠点は従来のような物産展示ではなく、外国の方も驚く意表を突いたものにしてほしい。キーワードは「シンプル」と「滋賀の志」です。例えば首都圏拠点に障がいをお持ちの人らのアート、アール・ブリュットの作品をずらっと並べて障がい者福祉の父である糸賀一雄の『この子らを世の光に』を紹介するといったことです。
滋賀ならではの観光

 司会 三日月さんは琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」にチャレンジされていますが、「滋賀ならではの観光」について伺えますか。


自転車などで琵琶湖を一周する「ビワイチ」は滋賀の観光の目玉の一つになっている。三日月大造知事も「ビワイチ」を楽しみ、琵琶湖岸を風を切って走る(写真提供=県)。

 三日月 「滋賀ならではの観光」の一つは、自然体験型です。「ビワイチ」やハイキングなどです。二つ目は歴史文化活用型。県が石田三成のPR動画をつくったところ、彦根、米原、長浜への観光客が増加しました。滋賀には明智光秀の坂本など、たくさんの素材があります。三つ目は連携型です。平成二十七年に琵琶湖周辺が「日本遺産」(注1)に認定され、琵琶湖一周の楽しみが深まりました。行政だけでなく、船舶事業者や観光ボランティアの皆さんとも連携して琵琶湖を中心とした観光素材をPRしていきたいと考えています。

 司会 琵琶湖汽船では、近江八幡市の長命寺港を拠点に島めぐりのルートを設けられていますね。

 川戸 滋賀県には七つの古道が通っています。東海道、中山道、朝鮮人街道、高島〜長浜間の北国街道、鯖街道、西近江路街道、それと湖上交通の湖道です。この中で育まれた文化は、大津と草津が京文化、甲賀が伊勢文化、長浜・米原が中部圏文化、高島が若狭文化の五つに分類できます。
 その中で独自性のある近江文化と言えば、湖東平野が広がる近江八幡市から東近江市にかけての地域です。ここには近江商人の発祥の地があります。七つの古道を通ってきた情報が全部集まったからです。だから長命寺港に着目しました。
 将来的には白髭(しらひげ)神社がある高島市から長命寺港へ航路をつなぎ、陸に上がって近江八幡市、東近江市を通って忍者の里の甲賀市へ向かうルートを近江文化めぐりのゴールデンルートにしようと今活動している最中です。
 冨田 うれしいですね(笑)。手前みそになりますが、東近江地域は、滋賀県の中心部に位置し、近江の良さや魅力が根づいている、まさに「近江の縮図」です。この地域の魅力の一つは歴史・文化面での奥行きの深さだと言えます。二つ目は琵琶湖や鈴鹿山脈そして湖東平野に代表される自然との触れ合い、三つ目は近江牛や近江米、地酒など近江を代表する「食文化」です。
 これらの観光には近江鉄道や信楽高原鐡道の果たす役割が大きい。東近江市には近江鉄道の駅が十三駅あり、これを生かそうと市と同鉄道が包括連携協定を結んで、駅を核としたまちづくりを目指して八日市駅前の活性化事業を展開中です。さらに広域観光に向けて県、沿線五市、近江鉄道が地域活性化協議会を立ち上げ、地方創生事業を今年度から進めています。

 吉見 従来型の観光は、食べる、見る、泊まるという「あご・足・枕」でした。これからの観光は、暮らしぶりを取り上げて、隠された地域の魅力を引き出していく形になります。そこで大事なのは観光地域づくり組織の日本版DMO(注2)。県もいち早く県版DMOの登録をされましたが、重要なのは着地型・滞在型観光のコンテンツ(情報の内容)づくりです。
 着地型・滞在型とは、まち歩きやエコツアーを地域の人がガイドして、地域まるごと誇りを持って売る観光です。そうなると田舎が残る滋賀県では古民家や農家民泊が必要になってきます。それが外国人に受けるわけですよ。これからは、エコツーリズムに取り組む視点も大事です。


佐藤祐子(さとう・ゆうこ)氏 京都府生まれ。短大卒業後、オプテックス(株)入社。平成6年、(株)国華荘入社。21年、同社代表取締役社長に就任し、旅館「びわ湖花街道」の女将として活躍。滋賀県教育委員。46歳。

 司会 佐藤さんは京都生まれの京都育ちですが、果たして滋賀はお隣の国際都市・京都や大阪に肩を並べることは可能ですか。

 佐藤 例えば「京の着倒れ、大阪の食い倒れ」と言わているように、京都、大阪は視覚的あるいは伝達的にイメージが分かりやすいですね。これに対し滋賀は琵琶湖というイメージはありますが、同時に近江牛、鮒ずし、湖魚、比叡山、彦根城、ひこにゃん、ビワイチ、自然など、食・癒(いや)し・歴史・文化・観光・美術・購買それぞれのキーワードごとに多種多様な魅力に富んでいます。一言で言わない、言えないことが滋賀ならではの魅力です。それだけに、滋賀県民の持つ「滋賀のために!郷土を愛する心!みんな一緒に!」という志をまとめ、活かす先導役とともに団結することが大切だと思います。

佐 藤 多様性が“滋賀ならではの魅力”
吉 見 重要な着地型観光のコンテンツ
冨 田 もっと琵琶湖岸の規制緩和を
川 戸 DMOで持続可能な観光目指せ
三日月 アジアをターゲットに誘客へ



インバウンド戦略

 司会 増加傾向が続くインバウンド(訪日外国人旅行者)への「おもてなし」をどうすべきなのでしょう。

 佐藤 外国人のお客さまと一口に言っても、いろんな国から来られており、言語、宗教、食文化など様々です。このため多様なニーズへの対応が必要になります。一方的に日本の作法を押し付けるのではなく、外国人の方に心を寄せて相手を理解し、一生懸命に伝えて「おもてなし」をしようと思う姿勢が大事です。
 これからも外国人旅行者の皆さまが増えてきますので、オール滋賀で取り組む必要が出てきます。


冨田正敏(とみた・まさとし)氏 愛媛県生まれ。平成14年に滋賀報知新聞社代表取締役に就任。(社)日本地方新聞協会会長、(社)滋賀県新聞連盟代表理事、(社)東近江市観光協会副会長。67歳。

 冨田 佐藤さんのお話のように、訪日外国人の受け入れ態勢は、文化や生活習慣が日本と異なるので最大公約数を見出し、そこに各国の習慣などを加えて「おもてなし」をすることが大切です。さらに日本独自の暮らしぶり、食文化、習慣などを学んでもらえればリピーターになります。 それと県には琵琶湖岸の規制を大胆に緩和してオープンカフェなどができるようにしていただきたいですね。

 司会 三日月さんは昨年十一月に海外出張し「観光と食」のトップセールスをされましたが、インバウンド対策についてお聞かせください。

 三日月 今後も外国人旅行者は増えると想定されています。これに対応できるところに人が集まる、グローバルレベルでの競争時代です。大事なことは、グローバル時代の「コンテンツ」になっているかです。また、アクセス面や言語面で「おもてなし」ができているかという「ソフト」の問題も重要です。
 昨年、台湾やベトナムなど五か国を訪問しましたが、いずれの国も琵琶湖には高評価をいただきました。しかしどの国においても「知らなかった」という第一声が共通でした。最近はスマートフォンなどで、その国の言語が分かりますから、もっと世界へ情報発信しなければと痛感しました。
 吉見 日本はいつまでも富士山、箱根、東京、京都、大阪といったゴールデンルートに頼っていてはダメです。現在、日本に来られて爆買されているアジア系の人たちに加えて、滞在型の欧米や豪州などの外国人旅行者のニーズは今後、田舎体験やビワイチといった体験型に変わってきます。やはり質の高いインバウンドを追求すべきです。
 国の調査では、一昨年の訪日外国人の都道府県別訪問率は奈良県が五・二%、京都府二四%、東京都五二%ですが、滋賀県は〇・七%にすぎません。琵琶湖をアピールするなら、まずブランドイメージをつくることです。今よく外国人が来るのは、川端(かばた)がある高島市の針江(はりえ)です。インターネットを使ってピンスポットで来ますから、今まで目立たなかった滋賀がこれから売れる時代です。

 司会 昨年十一月に琵琶湖の観光船運航会社で構成する県旅客船協会(川戸良幸会長)が、台湾最大の湖・日月潭(にちげつたん)の同業者団体と観光などで連携する協定を締結されましたね。


川戸 良幸(かわと・よしゆき)氏 滋賀県生まれ。昭和50年、琵琶湖汽船(株)入社。琵琶湖一筋に平成26年、代表取締役社長に就任、現在に至る。滋賀経済同友会副代表幹事、びわこビジターズビューロー副会長。61歳。

 川戸 今、台湾から日本に来られるお客さまは年間約五百万人、台湾に行かれた日本人は年間約二百万人とアンバランスになっています。台湾からこれだけ来られていることに、まずは感謝の気持ちを伝えたいと思ったのがきっかけです。相手の良さを知った上で、自分の良さを売ることで国際交流が始まります。互いの観光情報を発信し、両国で開催するイベント交流などを通じて日台両国の送客に努めていくつもりです。
 滋賀県はミシガン湖のある米国ミシガン州、洞庭湖の中国湖南省などと姉妹提携を結び、各市町も同様の提携をしておられる。私どもも民間で日台友好交流を行うことで日本遺産などに結び付け、国内旅行としての琵琶湖をもう一度復活させたいと思っています。

 三日月 国民的資産である琵琶湖を守ろうと平成二十七年に琵琶湖保全再生法が公布・施行されました。県では琵琶湖を保全するためにも、もっと活用しようと考えています。湖上交通やナイトクルージングなど湖上の観光やカヌーなどの遊びも普及させていきたいですね。


新しい組織づくり

 司会 観光地経営の視点による地域づくりとして、多様な関係者が協働しながら戦略を練る組織、DMOが注目されていますね。

 吉見 今の観光市場は有名観光地にばかりに人が流れています。それを地方にまで恩恵があるものにするには、DMOしかありません。地域住民も行政も従来の観光事業者や観光協会も、枠を超えて、フラットな関係で地域を盛り上げていく組織をつくらないといけません。
 人と人、内と外をつないだりするわけですから、最初はお金になりません。どうしても行政の手厚い支援がいります。DMOを触発する意味でも首長には明確な(DMOの)イメージを語っていただきたいですね。

 川戸 DMOのMはマーケティングとマネジメントですが、DMOの概念は新しいプラットホームでみんなの力を合わせてマーケティングを拡大し「全体最適」を求めていくことです。滋賀県は中小企業が多いですから、同じ業界なり異業種なりが連携してマーケットを創造していくために力を合わせながら、自分の会社の存続のための「部分最適」のマネジメントをしていくことです。日台の船会社同士の提携は互いに協力してマーケットを開けながら、マネジメントを改善して持続可能な観光を目指すもので、これもDMOの一つです。

 冨田 東近江市観光協会は、旧八日市市と六町が合併してつくった団体ですが、その一つの五個荘町は公でなく私的な団体の観光協会でした。これこそが民間の力を活性化して観光で地域を盛り上げる今回のDMOの原点になると思っています。
 「東近江市版DMO」に向けて、当協会では旅行業免許を取得し着地型観光を進めています。地域資源の磨き上げや地域でのストーリーづくり、観光ネットワークづくりです。必要なのはDMOという組織ではなく、DMOの持つ新しい機能です。当協会がDMO組織を立ち上げるかどうかは別にして、「観光地経営の発想」、「地域主導」のマネジメント機能が必要であり、協会の役割は重要性を増しています。


長浜曳山祭の曳山行事が昨年12月、日本の山車祭33件で構成する「山・鉾・屋台行事」として、ユネスコの無形文化遺産に登録された。曳山の舞台上で演じられる子ども歌舞伎で知られる。(写真提供=公益財団法人長浜曳山文化協会)

滋賀のおもてなし

 司会 DMOの体制づくりが不可欠ですね。その中にあって女性客をターゲットにした「おもてなし」の戦略も重要になりますが。

 佐藤 「おもてなし」は、思って成す、表裏がないことだと言われています。ただそこにいるだけで心が満たされるものを準備し提供するのが、「おもてなし」です。女性だけでなく万人に共通する「美しい心でありたい」「健康でいたい」という思いを形にすることが「滋賀のおもてなし」戦略になればと思います。

 三日月 今年を「観光立県元年」に位置付けて、もう一段取り組みを広げていきます。その意味でもDMOは大事です。DMOのМは三つあります。一つはマーケティングのMで、市場調査などです。二つ目はマネジメントのMで、人材です。滋賀に来る観光客は、東京、京都にないものを求められる。その時、「滋賀はこうだ」と多言語で表現できる人材が必要です。そして三つ目は、インターネットを利用したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを含めたメディアのMです。 昨年、台湾の台北国際旅行博を視察しましたが、日本なら旅行代理店と観光業界といった企業対企業の商談会なのに、ここでは一般の消費者が直接、旅行商品を買うのには驚きました。距離的にも文化的にも近いアジアをターゲットに滋賀を売り込み、来ていただくための取り組みを強化していきます。

 (注1)日本遺産=地域の歴史的魅力や特色を通じてわが国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」として文化庁が認定する。県と東近江市などの六市が申請した「琵琶湖とその水辺景観−祈りと暮らしの水遺産」が平成27年、「日本遺産」に認定された。その後、長浜市も加わる
 (注2)日本版DMO(デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション)=地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに、「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら戦略を策定、実施するための調整機能を備えた法人(組織)


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