ひがしおうみコミュニティビジネス推進協議会事務局長 橋本 憲
NPO法人「市民ソーラー・宮崎」副理事長 中川 修治
◇東近江
児孫に美田を残そう
昨年は、ご覧になられた方も多いと思いますが、NHKの大河ドラマ「篤姫」の中に登場してくる幕末最も有名な人物とも言える西郷隆盛の言葉に「児孫のために美田を残さず」というのがあります。
西郷は、手をかけずともよい米が出来る水田を遺すと争いが起こるので残すべきでない、必要以上の財を造り残すのは子孫のために良くないと言ったのです。
しかし、現在の我が国や世界を見渡すとどうでしょうか、必要以上に富を創造しそして昨年はそのバブル(風船)が、誰かが針で突き刺したがごとく弾けてしまいました。いろいろなものの値段が上がり、資源争奪戦が世界各国で繰り広げられた昨年はいったい何だったのでしょうか。新しい年を迎えるに当たり皆さんにあらためてご一緒に考えていただきたいと思うのです。
思えば我が国も十数年前バブルを経験し弾けて長い年月苦しんで参りました、そして実感の無い経済成長の中で、「美田」と思ってひたすらに創造してきた産業は空洞化し地域経済は疲弊どころか崩壊した感すらあります。正月早々何を書くんだとお叱りを受けそうですが、やはり現実を直視する必要はあります。
先ほどの西郷隆盛が、生きた時代からつながる今を考えるべきなのかも知れません。二百六十年続いた農の営みが基本だった徳川幕府の時代から、「黒船」に象徴される国際状況の激変によって開国、ひたすらに産業立国の右肩上がりの文明社会を追いかけてきました。そして東京の一人勝ちで完成したのは「中央官僚集権国家」ではと言われています。
では、何をどう考え、すべきなのか。先ほど「美田と思って」と書きましたが、いま私たちが営々と蓄積し残そうとしているものが二つあります。それは、「膨大な借金」と「将来、未来、使われるのだろうかと疑問を持つような構造物」です。
このままでは、自然という基本的な財産までをも壊してしまうと言うことです。言い換えれば、太陽の恵みと豊かな自然環境があればこそ、「命」を育む「美田」を次の世代が自分たちの力で開墾して生きていけるのですが、借金だけを残すことになってしまうのではという懸念です。
経済がグローバルになったと言われる現代だからこそ地域が自立独立できるようあらゆる場面、それは「食料」や「エネルギー」、「地域経済」で自給力を高め確保しなければいけない時代に私たちは立ち至っているのではないでしょうか。
これからの東近江の十年先、三十年先、百年先を見通す中で是非とも正月の清々しい空気の中でじっくりとこうした問題、真の「美田」とは何なのかについて思いをはせていただきたいと思うのです。特に中・高校生など次代を担う人達にそう思うのです。
東近江太陽光発電所
さて、二十一世紀も折り返し点近くになった東近江二○四X年物語を始めてみましょう。
私たちが戦後、高度成長を経て世界第二の経済大国まで登り詰めたのが二十世紀、そして多くの日本人が夢見た二十一世紀も半分過ぎようとしています。しかし、周りを見ると想像とはまったく別の世界が広がっています。
今では中国やインドといった国々が世界一の経済大国となりました。それに伴いエネルギー消費が飛躍的に伸びたことにより石油が高騰し枯渇しつつあることから、代替の利かない原材料にだけ供給されるようになって数年がたっています。
原子力発電も燃料ウランの争奪戦により高騰するようになり、資源の先細りも懸念されるようになってきました。ただ、東近江市ではそうなる三十数年前の二○一X年、国に先行しヨーロッパ型のエネルギー政策を採ったお陰で各家庭は太陽光発電システムを自宅の屋根に乗せることにより、必要とする電気の殆どを自然から生み出される電気で賄えています。設置には銀行からお金を借りても利子分を含めて十五年で戻ってきますので皆が自宅の屋根に積極的に載せたのです。
マンションや家を借りて住んでいる人は、発電組合にお金を出し自分の使う電力の分のパネルを公共の屋根や屋根を貸してくれる民間企業の屋根に載せて発電することにより、同じように十五年で金利も含めた設備費が回収されるようになっています。そして、その後の五年も電気料金収入が保証されるので、安定した運用先となっています。
この仕組み、当初は十年で投資費用だけが回収できるしくみでしたが、その後、先に取り組んだ人が、後後の人よりも条件が悪くならないようにしたり、支援制度に地域経済への貢献度が高いアイデアが盛り込まれるなど、より地域で生活する人々にとって望ましい仕組みとなりました。
この制度ができて四十年目、すでに市内の殆どの世帯の屋根に太陽光発電が乗っています。今では、発電コストも下がり産業用にもコストが合うようになってきていて市内の企業の大きな屋根に太陽光発電の設置が進められています。
こうして東近江市はエネルギーの自給に日本で初めて市民主導の積み重ねで達成することができたのです。こうした取り組みは東近江モデルとして日本各地の自治体でも採用され拡がっているのです。そして、このきれいな電気を支えているのは、地域内に使われるクーポン券です。そこには「私たちの命は東近江に降り注ぐ太陽と大地と水の恵みで支えられている」と記されています。
「夢みたい」と思われるかもしれませんが、実現できる話です。その第一歩の取り組みが、今年から始まろうとしています。
日本初の地域システム
その取組みとは、東近江コミュニティービジネス推進協議会が設立にむけて活動をすすめている「(仮称)東近江ナチュラルエナジー会社」と「(仮称)ひがしおうみ風と光の未来基金」などです。
このうち、東近江ナチュラルエナジー会社は、太陽光発電など具体的な自然エネルギーのプロジェクトに出資します。そして、ひがしおうみ風と光の未来基金は、十五年で投資費用が回収できる仕組みを支えるための基金です。
自然エネルギーはまだまだ割高です。特に太陽光発電は、毎時一キロワットの発電原価が四十五円程度と一般商用電源の二十三円程度のほぼ二倍。でも、環境問題や資源問題など将来のことを考えれば自然エネルギーは必要なことは疑う余地はありません。
では、誰がその費用を負担するのかです。国は補助金で設置を進めてきました。しかし、その弊害として負担されるべき正しいコストが見えなくなってしまっていることや補助金の予算の規模で設置されていく件数が限られてしまうとか、補助金の不正受給が起こったりとか、マーケットメカニズムが働かないとか、何にもまして必要な成果=発電量の総量が分らないなどの欠点が明らかになりました。
これを正しく評価するには、ドイツで採用され今ではその効果が国際的にも認められたFIT(長期固定価格買い取り制度)が最も有効適切であることが分っています。この支援制度は設備の購入に補助金を出すのではなく、その成果である発生電力に対して支援を行うものです。つまり、どれだけ発電したかを重視する仕組みで、その成果が報告されますので、CO2の非排出量なども簡単に分る訳です。
具体的には電力料金と同じだけの二十三円分と発電原価の差額分二十二円が補填されれば太陽光発電への設備投資はプラスの金利を支払うことも出来るようになり、損することなく安心して設置に踏み切れるのです。
勿論、後からの設置者の原価は下がりますので補填される金額も下がっていきます。そして、今回の取り組みではこの差額補填分の資金を拠出するための基金を創設することにしています。ここには、全ての電力消費者が拠出することを目指す基金を設立して未来に備えます。
こうした仕組みは、この日本では初めてのものとなります。また、この新たに生み出された価値を地域内で“見える化”するため、通用期間限定市内限定のクーポン券(商品券)にしようと思っています。地域の資源を循環させて生かして未来に繋がる私達の取り組みに、皆さんどうかご参加いただければと思っております。






