待機児童なぜ減らない
◇東近江
東近江市では母親が第二子を出産後に育児休暇を取った場合、在園中の第一子が保育園を途中退園しなくてはならない「育休退園」という決まりがある。待機児童を一人でも多く受け入れるための措置で、復職時に優先されるものの再入園できる保証はなく、そのまま待機児童となって母親が辞職した例もある。少子化のなか、待機児童が減らない要因は何なのか、保育行政をルポする。(飯田香織)
母親が家にいる育児休暇中は「保育に欠ける」状態ではないため、保育園の入所要件を満たしていないとされ、市では育児休暇対象児が生後六カ月を迎えると同時に上の子は途中退園を余儀なくされる。ただし、環境の変化に配慮して、小学校入学前の四・五歳児については在園が認められている。
長男(3)が途中退園になったAさん(38)は、戻れる保証のないまま家庭育児を過ごしたが、育休が切れる二週間前に定員最後の一枠で二男(1、当時8カ月)の入園が決定。待機期間は二カ月と短かったが、その間、長男は先生や友だちを思い出しては泣く状態に。三・四歳といえば幼稚園や保育園に通っているのが一般的な年齢で、様々な関わりから社会性も身につき始めたころ。家庭育児だけでは満たされない幼児期の心の成長を認識した。
また、長女(3)が途中退園になったBさん(35)は当初、長男が一歳になる月に入園を希望していたが、すでに満定員のため断られてしまい、新年度までの九カ月間、姉弟とも自宅待機に。市と話し合いの結果、育休を延長せず、祖父母が長男をみる―との条件で、長女が戻れることになった。だが、安心もつかの間、「四月から必ず園に入れる保証はできないと言われた。もし入れなかったら」と、仕事を続けられるかという不安にさいなまれる。
実際に育休明け後、二人の子の預け先が見つからないまま仕事を辞めた母親もおり、全国では、こうした母親の約半数が仕事を断念。安心して二人目を産むことさえ難しい制度とも言える。
一方で、育休退園を求めない自治体も存在し、滋賀県では大津市、定員に余裕のある豊郷町・甲良町・多賀町がそうだ。また、雇用の安定を確保するため、一歳誕生月まで在園を認めている所があるほか、長浜市・近江八幡市など「物心が付く三歳児」は保育の継続を認めている。
これに対して市幼児課は「たしかに、三歳児は社会性が身に付き、友だちとの遊びや園での生活など外へ目が向く年頃。また、三歳になったばかりの子と、四歳を迎えている子など、この一年の精神的な成長の開きは大きく、一律に三歳児を退園させるのは酷に思うことがある」と理解を示すものの、「半年、一年、それ以上と自宅で待機し、待っている子を入園させなければ」と一定の規制は仕方ないと訴える。
潜在需要者は80万人
幼稚園は定員割れ
入園申請しながらも認可保育園に入れない「待機児童」は、昨年十月現在で市は五十七人、全国(未集計のため昨年四月現在)二万五千五百五十六人、この内の八割を〇~二歳児が占めるなど深刻な問題となっている。年々子どもの数が減っているのに、なぜ待機児が減らないのか。この背景には、景気の悪化によって世帯収入が減り、働きに出る専業主婦が急増したことなどがある。
さらに、厚労省は待機児童ゼロ作戦開始後の平成十五年に、待機児童の“数の定義”そのものを変えた。第一希望の空き待ちをしている子や、一時的に無認可保育園などに通う子は除外されて表向きの数は大幅に減少。旧定義で数えると市は約百五十人、全国約四万五千人になるという。
そもそも待機することすら諦めている「潜在的な待機児童」はカウントされず、こうした潜在需要者は八十万人を超える(厚生労働省試算)といい、需要と供給が合わないのだ。
■幼稚園は定員割れ
その一方で、全国的に幼稚園は定員を下回り、空き教室も一割以上存在。保育時間は四時間程度で延長も一時間ほど。保護者の就労時間とが合わないことから、長時間保育が可能な保育園へ集まり、需要を引き上げる要因にもなっている。
そこで、待機児童解消の切り札として国が始めたのが「認定こども園」だ。保育所(厚生労働省所管)と幼稚園(文部科学省所管)の機能をミックスさせた新しい選択肢で、就労の有無に関わらず入園できるほか、長時間保育にも対応する。
市でも、平成二十五年度にちどり保育園、びわこ学院大学で開園する予定で、これを好機に、市立幼稚園の延長保育を午後五時まで延ばせないか―の声が出ている。
■財源なしには限界
こうした「長時間預かり保育」は、全国の私立幼稚園の九割、公立幼稚園の五割近くが実施し、仕事の継続や再就職が可能と評価を得ている。ただこの場合、長い夏休みをどうするかの問題が残るとともに、三歳未満の乳幼児は結局入園できず、待機児童の解消には繋がらない。
同様に待機児童が急増する兵庫、愛知の都市部では、幼稚園や小学校の空き教室を乳幼児用の保育所に転用する自治体が増えているほか、東京都品川区のように、五歳児を小学校の空き教室に、空いた園に乳幼児を受け入れる動きもあり、入学前の不安解消にも効果が期待されている。
いずれも緊急的な試みだが、需要の増加を見据えた受け皿づくりは必要で、財源なしに待機児童を減らそうとしても限界がある。
取材から
待機児童は「園の増設は需要を誘発する」「第一希望のこだわり」と、保護者の問題にすり替えられることが多かったが、需要の見込み違いや保育予算の据え置き、削減など行政の対応が後手に回っていることが原因。
また、問題視されながら未だに残る「育休退園」は、女性の社会進出を阻むほか、第一子・二子以降の出産控えから出生率の低下を招くことにもなり、国は抜本的な制度の改正と財源確保に踏み出すべきだ。市幼児課では多くの子が入園できるようあらゆる努力をしているが、すでに在園している子を出すのではなく、施策の見直しによって解決する必要がある。(飯田香織)







