ここだけにも、ここ以外のどこかにもなれる滋賀
【全県】 現在公開中の「近江商人、走る!」(三野龍一監督、配給:ラビットハウス)をはじめ、昨年公開された「線は、僕を描く」(小泉徳宏監督、配給:東宝)、話題となった「るろうに剣心」シリーズ(大友啓史監督、配給:ワーナー・ブラザーズ映画)など、近年、数々の映画が県内各地で撮影されている。時代劇から現代劇まで、映画制作者から高く評価されているロケ地・滋賀。様々なシーンでスクリーンを彩る湖国の魅力を追った。(羽原仁志)
滋賀ロケーションオフィス
県民と共に映画支援し20周年
県内での映像制作を誘致・支援している「滋賀ロケーションオフィス」(事務局・県商工観光労働部観光振興局)が昨年、設立20周年を迎えた。関係者らは「制作者の『滋賀に来れば撮れないシーンはない』という思いと、地域の信頼に応え続けられるよう、これからも全力で撮影をサポートしていく」と意気込む。
同オフィスは、映画やテレビドラマなどの作品を通して滋賀県の魅力をPRし、県民と共に地域振興を図り、観光の振興や地域の活性化を目指すことを目的に、県と市町などが2002年4月に設置した。現在、毎年ほぼ100件以上の映像作品のロケを誘致・支援しており、そのうち、映画は21年度に14作品を支援、22年度も11月下旬時点で7作品の支援が決定している。
滋賀県内で映画撮影ラッシュ
映画制作関係者を引き付ける風土とは
開設当初から同オフィスでは制作側からの要望に合致するロケ地を一つずつ開拓、地元の理解と信頼を作ることに取り組んできた。時には制作側の要求に厳しく意見し、また別の時には、地域に謝罪することもあった。同オフィスの安藤恵多さんは「制作側も地域も、お互いが気持ちよく撮影でき、『次の撮影も』と思ってもらえるとうれしい」と語る。
オフィスには制作側から「こんな風景が撮影できる場所はないか」、「短期間でエキストラを集められないか」といった声がかかる。また、地域にもロケに対する理解が深まってきており、「自分たちが普段見ている景色や昔から地域で大切にしてきたものが、映像としてずっと残るのがうれしい」といった声も聞こえるようになってきている。同オフィスの明石清孝さんは「地域と一緒に撮影の経験を積んできた20年だった。県民と一緒に映画作りを支援する一つの形が出来上がってきている」と述べる。
同オフィスが年1回発行している情報誌「滋賀ロケーションオフィスNEWS」最新号では、開設20周年記念を特集。歴代スタッフが思い出に残ったエピソードを紹介。有名映画のクライマックスシーンが実は県で撮影されていたことや図書館ではない建物を図書館に見せるため3万冊の本を集めたことなど、同オフィス20年の軌跡を垣間見ることができる。同情報誌は県内市町の観光関係部署や道の駅などで配布している。
今年4月から、同オフィスは21年目の活動に臨む。スタッフらは「今年公開の映画にも県内で撮影された作品がたくさんあります。ご期待ください」と述べる。同オフィスが支援した作品は随時、同オフィスのホームページ(http://www.shiga-location.jp/)やSNSの同オフィス公式ツイッターなどで情報発信している。
滋賀ロケの醍醐味
「ロケの都」への期待
昨年10月、小泉徳宏監督の作品「線は、僕を描く」が公開された。同作は、水墨画家で小説家の砥上裕將さんの同名小説(講談社文庫)が原作。横浜流星さんが演じる主人公の大学生・青山霜介が水墨画との出会いと清原果耶さん、三浦友和さん、江口洋介さんらが演じる様々な人たちとの交流の中で成長と再生していく人間模様を描いている。
小泉監督は、以前、競技かるたに取り組む女性の成長を描いた漫画「ちはやふる」を原作とした映画「ちはやふる―上の句―」と「ちはやふる―下の句―」(2016年)、「ちはやふる―結び―」(18年、いずれも東宝配給)を県内で撮影しており、今回の「線は、僕を描く」で、4作連続滋賀県での撮影となった。
「線は、僕を描く」の撮影は大半が県内で行われた(左表参照)。多くのエキストラも出演しており、野菜農家、養鶏農家、漁業者には地域の人が本人役で出演しているなど、県の日常がそこかしこに描かれているのも特徴の一つとなっている。
全国公開に先立ち、大津市内で行われたメディア向けの試写会には小泉監督も出席し、滋賀ロケの醍醐味について語った。
小泉監督は、「『ちはやふる』は競技かるたの話なので、毎年、実際の大会が開かれている近江神宮のある滋賀県での撮影は必然性があった。一方『線は、僕を描く』は、特定の地域を舞台としていないので、撮影場所を話し合った時、スタッフから『もう一度滋賀に行きたいね』と意見が挙がり、決定した」と語り、「滋賀の皆さんは撮影を迎え入れてくれる体制が本当に整っているので、また来たくなる」と述べた。さらに「滋賀県は、琵琶湖など特有のものを見せるように撮れば滋賀県の物語に、それを外して撮れば日本のどこにでもなれる。そういう意味でも滋賀県は撮影に向いている。皆さんもまだ気づいていない滋賀の魅力に僕は気付いたと思っています。これから多くの映画関係者がその魅力に気づき、“映画の都”のような感じで滋賀県が盛り上がっていったら個人的にはうれしい」と期待を語った。
地域で受け継いできた歴史
制作者が求める滋賀の魅力
滋賀ロケーションオフィスによると、近年、数多くの撮影が行われている場所の一つに油日神社(甲賀市甲賀町油日)が挙げられる。
同神社は、西暦877年以前の創建。国指定史跡の境内にある本殿をはじめ、回廊、楼門は重要文化財として指定されており、甲賀地域の歴史と文化を今に伝えている。
同神社では、「るろうに剣心」シリーズといった時代劇のほか、「線は、僕を描く」といった現代劇でもロケ地として活用される。
昨年11月下旬、今年秋公開予定の映画「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督、配給:未来映画社)の撮影が同神社の境内で行われ、同神社と撮影隊の厚意で同行取材した。
同作は、幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、“斬られ役俳優”として成長していく姿を描く。
同神社でのロケについて、安田監督は「回廊で囲まれた境内は照明が届きやすく、地面が平らで移動しながらの撮影でも助かる。何より、撮影隊を迎え入れてくれる体制が素晴らしい」と語る。
同神社の瀬古宮司は「神社は、氏子さんや地域の人が普段からお参りされ、行事の際には集まるなど、今も昔と変わらず大切に使われています。その雰囲気が撮影をする人に好まれるのかも。そんな地域の魅力が伝わるとうれしい」と述べている。
本格的な時代劇の舞台に
彦根オープンセットの挑戦
2019年、彦根市に映像制作のためのオープンセットが誕生した。県内外の事業者による共同事業「シネマジャパネスク」が運営し、様々な撮影が行われている。
始まりは、司馬遼太郎氏の小説が原作の映画「燃えよ剣」(原田眞人監督、配給:東宝アスミック・エース)の撮影だった。セット建設に携わった事業者らが「彦根で本格的な時代劇を」と意気込み、幕末・動乱の京の町並みを現出させた。
映画は21年に公開。同共同事業に携わる建設機械レンタル業・滋賀建機(愛荘町中宿)の蔭山啓介取締役は「公開時の喜びはひとしおだった」と振り返り、今後の同セットについて「世界中に日本映画の良さを発信できる場所の一つになってほしい」と期待している。















