新春座談会滋賀報知新聞
【東近江】 能登半島地震から1年。そして不運にも被災地は9カ月後に記録的な豪雨に襲われた。自然災害は全国各地で激甚化・頻発化しており、いつどこで発生してもおかしくない。そこで本紙は「災害に強いまちづくり」をテーマに新春座談会を開催し、小椋正清東近江市長をはじめ、企業・官公庁の情報保管サービス業を営み、災害対策を重視して市内に拠点を構えるNXワンビシアーカイブズ社(東京都港区)の高橋豊社長、東近江消防で災害予防に尽力する大辻直子氏、村田鈴氏、滋賀報知新聞社の冨田正敏社長に集まっていただき、防災・減災について語り合ってもらった。
――昨年9月、市長会から県への重点要望で自然災害への対応がトップに挙がっていた。地方自治体の首長として問題提起を。
小椋 近年、全国で多発する自然災害に非常に危機感をもっている。県へは、市町単位になっている避難の範囲をもう少し広げて、被害が少ない地域へ避難する広域避難体制を、県主導で検討するようお願いした。
能登半島地震のような広域にわたる災害が発生すると、市町の職員自身も被災者となる。そんなとき、隣接あるいは遠くの自治体への避難を想定しておけば、職員の負担が軽減され、行政サービスの維持、復旧作業の効率化につながる。
小椋 戸別受信機で細かな情報
冨田 東近江は県下トップの防災・減災力
――東近江市で起こりうる災害の想定と対策は。
小椋 地震でいうと、毎年の防災訓練では本市で最大の震度となる鈴鹿西縁断層帯の震源を想定しているが、今後30年間の発生確率は0・08%~0・2%と、地震の発生周期を考慮する必要はあるがそれほど高くない。一方、南海トラフ地震は、今後30年の発生確率が70―80%と極めて高いが、本市は津波の心配はなく、本市の被災状況によっては、被災地からの避難者の受け入れも考えておく必要がある。
水害では、愛知川の下流域で1990年に浸水や犠牲者が出た。2013年は大雨で琵琶湖水位が77センチも上昇したため、愛知川の流れが悪くなり、支流沿いで浸水被害があった。
蛇砂川については2019年、水位上昇時に一定の増水分が愛知川に排水される八日市新川(しんせん)が暫々定通水にこぎつけた。それ以降の氾濫はなく、住民の安心感はずいぶん上がった。
自然災害に対する備えでは、まず自助としては、市民に地域で起こりうる災害を知ってもらうため、防災マップを全戸配布している。地域ごとに災害の危険性を色分けして示しているので、例えば、水害では自宅にはどのようなリスクがあり、避難しなければいけないのかが一目で分かる。これを熟知していれば、被害の軽減が図れるはず。
さらに本市の強みとしては、防災情報告知放送システムの戸別受信機の設置に力を入れており、設置率は80%を超えた。屋外の防災スピーカーは、災害時は風雨などで音が聞こえにくい。これに対して家の中に受信機があれば、避難情報を地区ごとにきめ細かく受けられる。
共助でいうと、地域の自主防災組織の組織率は今のところ84・8%と高いが、命を助けるために組織率をもっと上げたい。
総合防災訓練については形式的とよくいわれるが、訓練に勝る準備はない。災害時の対応は応用であり、基本がないと動けない。訓練を繰り返すことで、自分の役割を身に着けることができる。
また、災害時応援協定は、企業・自治体と防災や物資支援の協定を可能な限り締結し、現在75件となった。昨年12月に締結した市内のスーパーとは、店舗や駐車場を一時的な避難場所として提供してもらえ、車中避難場所としても利用でき、トイレも提供される。
このほか、線状降水帯など新たな危険性が毎年高まっている。自然災害の発生は避けられず、発災時の被害をどう最低限で食い止めるか、そういう意味で自助、共助の強化を呼びかけたい。
高橋 強固な地盤に拠点施設
――NXワンビシアーカイブズ社の災害に備えた情報管理センターの立地条件は。さらに滋賀県と東近江市の災害リスクをどうみているか。
高橋 NXワンビシアーカイブズは1966年の創業以来、官公庁をはじめ民間企業の重要な情報(電子データ、文書、医療系の検体など)を預かる事業を営んできた。防災の観点でも、有事に備えて重要なデータの複製を安心安全に保管する役割を担っている。
関西拠点としての情報管理センターを、東近江市内には2カ所設置している。立地条件としては、大都市圏との同時被災を回避できる距離として、大阪・名古屋から60キロ以上離れた安全な場所にある。
また、重要な情報をお預かりしているため、情報管理センターは堅牢な建物でなくてはならず、設置前には地盤調査を行い、地盤の固い地域に建設している。地震への備えとしても、非常用発電機で72時間にわたり電源を確保できる。
一方、災害リスクで懸念しているのは雪害。近年は雪が降ると、高速道路はすぐに通行止めになり、一般道へ流れた車で幹線道路はマヒ状態になる。企業から預かっている情報を運搬する際、集配車両が雪による渋滞に巻き込まれてサービスが停止してしまう。国・県・市には、強固な交通網を構築していただきたい。
――行政による災害対応には、大災害時には追い付かないことも予想され、減災の観点から自助・共助が重要になる。東近江行政組合消防では、住民や企業にどのように啓発しているのか。
村田 近年は災害への危機意識が高まっており、指導の対象は、園児から女性防火クラブ、地域の自主防災組織までと幅広い。
自治会では、防災マップを活用して自分の住んでいる地域で発生しやすい災害を話し合ってもらい、共助を強めてもらっている。その際、災害を我が事として意識してもらえるよう、働きかけている。
例えば、家庭で用意する非常用持ち出し袋も季節によって変わる。能登半島へ昨年派遣された職員によると、1月に発生した震災では防寒対策、9月の豪雨災害では熱中症対策や虫よけが必要だった。なので、冬用と夏用で2つ用意してもよい。
大辻 企業関連では、東日本大震災で広範囲にわたって燃料油がほぼ枯渇した。当時、管内の事業所から「東北へ燃料油を送りたいので、敷地内で臨時に危険物を置きたい」などと多くの問い合わせを受けたが、法の規制で認められず心苦しかった。
後に手続きが緩和され、安全対策などを具体的に記載した計画を事前に提出すれば、危険物の仮貯蔵や仮取扱いが以前より簡単に手続きできるようになった。
消防からのメッセージとしては、燃料の取扱いや発電機の増強は消防法や火災予防の規制を受けるので、事前に消防署に相談して規制上の問題をクリアしたうえで対応してほしい。
――東近江市は自助・共助を促すため、どんな取り組みに力を入れているのか。
小椋 まず危機意識をもって、自分自身をどう守るか、それから家族、隣人で助け合う意識をもってほしい。
理念を説いても響かず、具体的な行動を促す啓発が重要だ。避難経路は実際に歩いたことはあるか、そして3日分の備蓄品、「防災の日(9月1日)」にはライトの乾電池を交換する習慣づけなどから始めるとよい。
その前提として、防災マップで自分の地域で発生する恐れのある災害を熟知すること。余力があれば、ひとり暮らしの高齢者や、障害のある人は近所にいないか、そういう気配りが地域の総合力になる。
大辻 多様な視点で対応充実へ
村田 災害を我が事の意識を
――企業の減災に関する危機管理でも、しっかりとした事業継続のマネジメントが発災後の再開を早めるという。NXワンビシアーカイブズ社の取り組みは。
高橋 サービス停止を極小化するため、事業継続のISO認証を取得している。平時の防災から有事の初動対応の体制を全て整え、初動訓練を定期的に行っている。
このうち自社対策として、従業員の安否確認システムを導入しており、広域災害時には、けがはないか、家屋の状況はどうか、出勤は可能かを一斉メールする。
東日本大震災で一番苦労したのは、自社で使う燃料調達だった。これを教訓に現在は関東で自家給油所を構え、トラック100台の燃料1週間分を確保している。滋賀は未着手だが、優先的に給油する会社と契約し、タンクローリーが来ることになっている。
また、取引企業のサポート事例では、1995年の阪神淡路大震災の際、神戸市の飲料メーカーが壊滅的な被害に見舞われたが、弊社の埼玉県の情報管理センターに事前に設置していたバックアップ用のシステムに切り替え、震災1カ月後には業務を再開できた。
クラウドサービスが普及した今でも、サーバーシステムを遠隔地に置いておき、有事にはバックアップオフィスとして立ち上げ直せるサービスを行っている。

大辻直子氏(東近江行政組合八日市消防署・消防司令)甲賀市生まれ。2003年に東近江消防に採用。以後、八日市、能登川、近江八幡の各消防署にて勤務。東近江行政組合事務局を経て、2023年4月から現所属にて予防担当主幹。44歳。
――災害に対するメディアとしての備えは、どうですか。
冨田 弊社の新聞媒体のほか、私はコミュニティFM放送局「FMひがしおうみ」の代表を務めており、東近江市との契約に基づいて、緊急時に放送を流すことになっている。
スマホでも受信可能で、いつでもどこでも聞くことができる。家庭では東近江市の防災無線、車やスマホではFMひがしおうみで情報をキャッチしてもらえる。
とくに近年は局地的な豪雨が頻発しており、比較的狭い地域でも、土砂降りのエリアとそうでないエリアが混在している。そのような災害情報を24時間体制で速やかに放送するよう契約を結んでいる。
また、日常の啓発としては、毎週金曜日の番組「おはよう火の用心」で、消防の方に火災予防や救急の話をしてもらっている。
官民連携で防災・減災力向上
――締めくくりに今後の課題を。
高橋 防災・減災は、一企業だけでは成り立たず、行政と連携を取りながら進めていく必要がある。人命救助が第一、大災害に強い地域づくりが大事。一企業がどんなに対応してもインフラが途絶えればどうにもならず、その点で行政と手を携えてゆきたい。
大辻 防災でも女性や高齢者、障害のある方等の多様な視点が求められている。避難住民は老若男女など様々で、例えば避難所運営では女性のプライバシーの保護などある。多様な視点から備えることが、いざという時に様々な人に配慮した対応につながる。
村田 単身世帯等で自治会に入会されていない方、または自治会のない地域もあるので、指導が行き届いていないのが心配。地域のつながりが薄れている中、共助という面で対応が難しくなっている。SNSを含めた広報を通じて、自助、共助の大切さを広めるとともに、地域の取り組みを支援し、防災・減災力を高めたい。

村田鈴氏(東近江行政組合愛知消防署・消防士長)東近江市生まれ。2009年に消防吏員となり、能登川消防署、日野消防署で消防隊、救急隊として従事。現在は愛知消防署で予防係(消防設備担当)として勤務。35歳。
冨田 琵琶湖は断層運動で形成された構造湖なので、県内で地震が絶対に起こらない保証はない。琵琶湖西岸断層帯が動けば、湖西を中心に震度7の揺れが予想されており、東近江市は避難住民を受け入れる大きな役割を果たす。
防災拠点施設でもある布引グリーンスタジアム(芝原町)を中心に相当量の備蓄がある。東近江市は、県下トップクラスの防災・減災力があり、安心安全があることを信じてやまない。
小椋 自治体の首長に課された責務と権限は非常に重く大きい。行政の究極の目的は、「市民の命を守る」、それに尽きる。
東日本大震災では長期にわたって帰宅できない地域があった。災害が人生を大きく変える転機になりうることを、市民としても認識する働きかけもしていかないといけないと思う。
自分たちのまちは自分たちで守りましょうと呼びかけ、危機管理と防災・減災意識をさらに高める一年にしたい。
(司会・文責・高山周治、写真・古澤和也、記録・矢尻佳澄)
東近江市で起こる水害
東近江市内には、愛知川、日野川のような大きな河川のほかにも、多くの中小河川が流れ、琵琶湖に注いでいる。琵琶湖に注ぐ多くの河川は、湖までの距離が短く、勾配が急で洪水が起こりやすい。また、山から運ばれた土砂によって、周辺の地盤高より水面が高い天井川になっており、万が一、堤防が決壊すると甚大な被害が発生すると想定されている。
(東近江市防災マップより転載)
家族で防災マップを活用して
防災に取り組もう
■まず、自宅の災害想定(ハザード)を確認
ハザードマップでは、色や図形で災害時の危険性が
示されている。自宅周辺の災害の危険性を確認する。
■地震時、風水害時の「我が家の防災計画」を作成
家族で話し合った内容を我が家の防災計画として
事前にまとめておく。また、定期的な見直しも大切。
■連絡方法など家族のルールを決める
災害時に家族全員がそろっているとは限らない。
連絡方法や集合場所など家族のルールを決めておく。
■災害時に、近所と助け合える関係を作っておく
災害時には、近所での助け合いがとても大切。
地域活動などを通して、顔の見える関係を作る。
市防災マップ(東近江市ホームページ)
https://www.city.higashiomi.shiga.jp/0000004573.html
県防災情報マップ(滋賀県ホームページ)
http://shiga-bousai.jp/dmap/top/index













