現代に伝えられる匠のメッセージ
◇東近江・日野町
江戸時代に製作されて百~二百年経った今でも現役で、馬見岡綿向神社の春の祭礼「日野祭」(五月二、三日)に花を添える曵山。豪華絢爛な見送り幕や彫刻など美術工芸に目を奪われがちだが、平成十九年度から始まった「曵山現状調査」で使い続けられる技術力の高さと構造の極みにスポットが当たり、曵山を守る人々の意識に変化をもたらしている。
●町民の声を受け強度・安全性解明へ
「前よりもギシギシと音がする」。曵山現状調査の原点は、曵山を守る町民からの巡行中のきしみや揺れに対する指摘だった。設計図の現存しない曵山だからこそ、上部構造や車軸などの強度・安全性について解明を求める声は多く、曵山を有する全国各地の共通課題でもある。
日野町教育委員会生涯学習課は、建築保存工学を研究している関西大学環境都市工学部・西澤英和准教授に調査を依頼。京都の長刀鉾の木造車輪強度実験を手掛けた経験を持つ西澤准教授が、平成十九年度から三カ年計画で調査に乗り出した。
初年度は仕出町・今井町・上大窪町・南大窪町の四基、今年度は金英町・杉野神町・双六町・河原田町・清水町・岡本町の六基、来年度は大窪町・越川町・新町・本町・西大路・上鍛冶町の六基が対象。
具体的には、外観の目視や振動・加振実験、重量測定、車軸にかかる荷重測定、車軸部の亀裂の有無・ひずみの状態を検証するエックス線透過写真のほか、地元住民の協力を得てギンギリ回し(方向転換のために車輪を少し浮かせて曵山を回転させること)や引き回し再現による振幅調査も実施している。
●生きた耐震工学
初年度の調査結果から、制止状態の曵山の揺れが良好な木造住宅と同じレベルであることや天場部分の揺れが震度四に匹敵すること、五重塔と類似した免振構造、体積に比例して重量が大きくなる傾向、構造が異なるにもかかわらず前輪右と後輪左への荷重が大きい共通点、ギンギリ回しよりも巡行時の負担の方が大きいことなど、曵山の特性が少しずつ明らかになった。
「まさに生きた耐震工学」と表現する西澤准教授は、「曵山には個性があり、一つとして同じ構造のものがない。動かせるよう無駄を省き改良を重ね、競い合うことで技術と美意識が向上していった。十六基すべての調査が終わったとき、全容が見えてくるだろう」と経過観察の重要性を説く。
●地域経済支えた修理
また、河原田町で保管されている「曵山再建諸入用帳」には、再建に携わった職人の名前が数多く記されており、維持修理により地域経済が循環していたこともうかがえる。
西澤准教授は「当時は分業制だったため、職人たちも技術を研ぎすまさなければならなかった。時代が変わっ
ても維持・使用できるものこそ真の技術。外国の人たちは、永い歴史に裏打ちされた文化や技術の中に日本の独自性を見ている」と、曵山に隠された職人たちのメッセージを読み解く。
●町民意識に変化
引き回し実験に協力した双六町の岡崎修町代は、「研究生たちの熱心な調査で曳山に負担がかかっていることなど、新たな気付きがあった。改めて曳山を見直すきっかけにもなり、自分たちで守っていこうという意識付けになった」と語る。
先人たちが残した歴史遺産を、これから何百年と使い続けるため、官民学が一体となって保存・修復・活用の道を探る。







