卒原発(上)嘉田前知事に聞く
平成二十三年三月十一日(3・11)の東日本大震災と原発事故から四年が過ぎた。原発事故を契機に元大蔵大臣の武村正義さんと前知事でびわこ成蹊スポーツ大学学長の嘉田由紀子さんとが掲げた「卒原発」を引き継いで誕生した三日月(大造)県政はこの二十日で一年を迎えた。鹿児島県の川内原発の再稼働が目前に迫り、福井県の高浜原発もこれに続こうとする中、「卒原発」を嘉田さんに聞いた。 【石川政実】
―この二月県議会の答弁(表参照)は三日月さんの考え方が集約されていると思いますが、どんな印象ですか。
嘉田 よく頑張っておられますね。ただ少し引っかかるのは「原発の再稼働は、最終的に政府の責任において判断されるもの」というところです。知事として、県民の命と、びわ湖を守るには、国が決めることと逃げてはいけない。国が勝手に決めて、3・11の原発事故になったわけですから。事実、避難体制も、廃棄物処理もできていない。被害地元として、おかしいことはおかしいと言い続けるべきです。
―福島県を度々、訪れておられますね。
嘉田 福島県の南相馬市や富岡町、大熊町など、人っ子ひとりいない町を繰り返し訪問し、ふるさとを追われた人たちに寄り添う中で、孫子とともに農業を営みながら暮らしていた老夫婦は仮設住宅に取り残され、「死ぬまでには家に帰りたい」と訴えられたり、子育て中の母親からは「子どもの健康が不安」などの声を聞きました。
こんな不条理なことがあっていいのですか。福島は決して他人事ではないです。
―原発再稼働反対の理由の一つに避難体制を上げられていますが。
嘉田 九州電力の川内原発再稼働に当たって、伊藤祐一郎・鹿児島県知事は十キロ圏を超える要援護者の避難計画は現実的でないと逃げられた。伊藤知事のように避難計画ができなくても再稼働を認めるというのは、「棄民政策」でしかない。それは私にはできません。
3・11事故直後、直近の原発からたった十三キロしか離れていない滋賀県を預かる知事として、県独自の避難計画づくりに取り組みました。しかし具体的に避難計画づくりを進めれば進めるほど、その実効性を担保することの困難さに直面することになった。
自家用車の避難には時間がかかり過ぎるので五百台以上のバス移動を計画したが、汚染地帯に民間バス会社の運転手を送りだす権限は知事にはない。
ヨウ素剤を配っても、医師などの立ち会いが必要とされている。医師らがたくさんいないとダメで、ヨウ素剤の服用もできない。
民間バスを汚染地域に送り込む権限は国にあるでしょうが、それもあいまいです。そもそも原発政策は、国の権限を勝手に決め、地域防災計画の法的責任を自治体に丸投げしたもので、再稼働などあり得ない。
―川内原発の再稼働は目前に迫り、関西電力の高浜原発も続こうとしていますが。
嘉田 高浜原発は、滋賀県にとっては三十キロ圏ギリギリです。
この原発の燃料は核兵器にも使用できるプルトニウムをいっぱい含んだMOX燃料です。
万一、事故があれば、被害の深刻さはセシウムの比ではない。このような中、山田啓二・京都府知事は二月に、関電と高浜原発について安全協定を結ばれたが、立地県並みの「同意権」は得られず少し残念な思いです。
―三日月さんにアドバイスがありますか。
嘉田 私は知事時代、若狭湾岸の原発事故を想定して、県立琵琶湖環境科学研究センターで放射性物質の拡散シミュレーションを行いました。今は琵琶湖の魚など生態系への影響調査をしています。県は全国でも珍しい県立の環境研究所を持っているわけですから、この強みを生かして原発のリスクを調べ、自信を持って発信してもらいたいですね。
電源の代わりはあっても琵琶湖の代わりがありませんから。
三日月知事の今年2月県議会答弁要旨
高浜原発再稼働問題だが、原発の再稼働は今後、地元の意向も踏まえながら、最終的には政府の責任において判断されるものと認識している。その地元とは、立地自治体のみならずUPZ30キロ圏内に位置する本県の意向も踏まえられてしかるべきだ。一方で、原発の稼働の有無にかかわらず、万が一の原発事故から県民を守るには、実効性のある多重防護体制の確立が不可欠だ。プラントの安全性のみならず、国、原子力事業者、関係自治体間の緊密な連携協力体制が構築されていることや、防災対策、避難計画が多重的、重層的に確立されていることが必要不可欠だが、費用分担、責任の所在の法定化も含めた多重防護体制は道半ばと言わざるを得ない。加えて使用済み核燃料の処理や廃炉の対策は未整備であり、現時点での再稼働を容認出きる環境にない
《お断り》連載のタイトル「1年を迎える三日月県政の課題」は、「1年を迎えた」に変更いたします。





