武村正義元知事にインタビュー 立ち往生のアベノミクス
二十二日に公示された第二十四回参院選は中盤戦を迎えた。安倍晋三首相が目指す憲法改正に賛同する勢力は、改憲発議に必要な三分の二(百六十二議席)に限りなく迫っている。そこでリベラルな姿勢を貫く武村正義元知事(81)=元大蔵大臣=と野党共闘を批判し自民党から高い評価の評論家・八幡和郎氏(64)=徳島文理大学教授=の論客二人に今回の参院選の意味を聞いてみた。
【石川政実、高山周治】
―安倍内閣のみならず、民進党など野党までもが消費税の再増税先送りですが。
武村 与野党ともに再増税の先送りは、端的に言って亡国の政治そのものです。日本の行く末を考えていない政治です。なぜなら、この国の財政はもう破綻していますから。一千兆円を超す、世界でもずば抜けた借金を抱えており、一刻も早く財政を健全化して社会保障をしっかり立て直さないといけないのに、政治が財政を悪くする方向に向かっている。このままでは日本は、巨大な財政赤字から滅びます。
―アベノミクスの評価については。
武村 アベノミクスは中途半端な状況で、立ち往生している。長年のデフレから脱却させようと金融緩和をしたりして、アベノミクスの最初の一年は、円安や株高で一定の効果が出ました。だけど地方や中小企業、国民全体にプラスの影響が出ないうちに頓挫(とんざ)した。大企業や株を持っている人が潤っている段階で、止まってしまった。私は「安倍さん、日本は資本主義の国、自由経済の国でしょ。一国の総理が経済を思うように動かせるというのは思い上がりです」と言いたい。
―安倍首相をどう見られていますか。
武村 安倍政権も二回目で、第二次政権も四年近くなってきましたから、国民が安倍さんという人物をどう見るかという時期に差しかかっています。安倍さんは、やさしい顔と怖い顔の両方を使い分けている。
普段はテレビにひっきりなしに出て、優しそうな顔です。だけど選挙で大勝した後の政策は、秘密保護法や集団的自衛権行使容認の安保法制といった具合に、これまで歴代総理が「憲法上できない」と言い続けてきたものを「やります」に平然と切り替える。
法制局長官を替えたり、賛成派の学者を集めて懇談会で議論をさせたりと、強面(こわもて)的なやり方をする。本来の安倍さんは、タカ派的で戦後の制度を変えたいという信念をもった政治家です。
―参議選で与党など改憲勢力が三分の二をうかがう情勢で、いよいよ憲法改正ですか。
武村 安倍さんの本音は、やはり憲法改正でしょう。おじいさんの岸信介さん(元首相)がやり遂げられなかった課題ですからね。ただ、たとえ三分の二を取る事態になっても、国民投票で否決される心配がありますから、まずは緊急事態条項(注参照)からはじめるでしょうね。
―野党共闘の評価は。
武村 全国すべての一人区で野党共闘が実現したのはいいことです。国民から見て分かりやすいからです。それと選挙協力ですから、政権をどうするか、とは次元がちょっと違う。
個人的な話で恐縮だが、四十二年前の昭和四十九年、自民推薦の現職知事と、オール野党に担がれた私が対決した滋賀県知事選があり、辛うじて勝たせてもらいました。民社、社会、共産、公明など、すべての野党が陣営に加わって、徹底した共闘により僅差(きんさ)で勝った。ほぼ十二年、県政を預かりました。
その間に自民も加わり、自民と共産が与党という呉越同舟の政権になった。でも、かなり思い切った仕事ができました。なぜかというとオール与党というのは、どの政党とも等距離で癒着できないから、知事の力が発揮しやすいわけです。
―だが自民、公明党は、「民共(民進と共産)は野合だ」と批判していますが。
武村 自民党も公明党という宗教政党と組んでいるわけで、同じことです。それに自民党は村山政権時代(自民党・社会党・新党さきがけ政権=平成六年~十年)には、社会党(現・社民党)とも組んでいました。振り返れば、そんなに偉そうに言える立場ではないのですよ。
(注)緊急事態条項=大規模災害や他国からの攻撃を受けた場合など緊急時に憲法秩序を一時停止し政府に機能を集中させることで、憲法違反との批判もある







