「ステージパパ、レオポルトの本音」 マンハイムでの初恋(27)
――マンハイムでは、息子さんは初めての恋愛を経験されたそうですね。
レオポルト よりによって、私が最も毛嫌いしている女の娘に恋などしよって。計画が無茶苦茶になってしもうたわ!私は未だに息子の行動が許せないのです。私は、息子には息子の才能を支え、彼の健康に気を配り、モーツァルト家全体が幸せに暮らせるような女性をあてがう予定をしておったのです。それが息子のあの体たらく。アロイジアが歌が上手いことは、私も認めます。それが息子の作曲の意欲を高めたことも事実でしょう。でも、そもそもウェーバー家は、当主の頭も悪いし、ことにあの当主の妻は、計算高くて、付き合いをするにも十分な注意が必要だったのです。それにしても、息子ももう少し理性があると考えていたのですが、小娘に心を許してからは、理性のかけらもなくなってしもうた。これだけ手塩に掛けて育ててきた息子が、あんなにも簡単に敵の手に落ちるとは!
――この点に関しては、日ごろ冷静なレオポルトさんも怒りが収まらないようですね。
レオポルト いや、失礼いたしました。私もこれまで息子には何度も「女には気を付けろ」と言ってきましたし、恋心が理性を失わせることくらい私も知っています。それでも大都市での安定した就職口を手に入れるという旅の本来の目的を忘れ、小娘を連れて、イタリアに行き一旗揚げるという、もう口にもしたくないたわけた夢を言ってきた時には、さすがにブチ切れました。私は息子のためにどれだけ犠牲を払い、その才能を伸ばすべく努力し、自分の職務を横に置いてまで、ヴォルフガングを一人前の音楽家に育てようと頑張って来たことか!その息子を他人に取られるんですぞ。これを許しておけますか!
――それで息子さんにはどんな指示を出されたのですか。
レオポルト 即刻パリへ向かうように、怒鳴りつけました。もう問答無用です。これまで遠路はるばる息子に同伴させてきた妻を、当初は、マンハイムから帰還させるつもりでいましたが、それもおじゃんになりました。「とにかくパリでひと花咲かせろ」息子に言う言葉はそれだけです。頭を冷静にするためにも、パリへ行き、新しい環境に入ることが大事だと考えたのです。それにパリに行けば、我々の強い味方であるグリム男爵がいてくれる。とにかくこの男爵にお願いしよう、私にはそれしか考えられませんでした。冷静沈着をいつも自慢し、息子にも熟慮、熟考の大切さを唱え続けてきましたが、その時は、不安と驚愕で、冷静な判断が正直なところできていませんでした。
――ということは、パリ行きはあまりいい効果を生み出せなかったのですね。
レオポルト いい効果どころか、絶望的な事態を惹起してしまいました。悔いても悔い切れない痛恨事が起こるのです!
モーツァルト・バー「キール」
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