『モーツァルト 父の夢、子の夢』(1)『父の夢、子の夢』(マンハイム・パリ旅行記)という本が示す世界
みなさん、夢をお持ちですか。有名なスポーツ選手が、成功の秘訣を聞かれた時、一様に「夢を諦めないことです」と、よくインタビューで答えていますが、生きる元気、やる気を生み出す根本には、やはり夢を持ち続ける大切があるような気がします。仮に、家族で夢を語り合っていて、父親が持つ夢と、息子が持つ夢が、どちらも「プロ野球の選手」なら、親子はお互い協力しあって、夢の実現に向けて、共同戦線を張ることができます。父親は「息子をプロ野球選手にする」という、息子は「自分がプロ野球選手になる」という夢の分かち合いです。モーツァルト父子も、息子が小さい時は、「大作曲家になる」という共同戦線を張っていました。父は子の才能をそれに相応しいものと見抜き、息子は父親のリーダーシップを信じて、無条件に父に付き従いました。仲睦まじい親子の夢の共有です。父レオポルトにしてみれば、自分が青年期に実現できなかった夢を、息子に託すという形ではありましたが、それでも息子の幸せを気遣ってその夢の実現を手助けしようとしたことに間違いはありません。こういう構図は、今も昔も、変わりはありませんね。しかも息子は学校に行かず、父親を唯一の家庭教師として育ったので、父親の指示は、絶対的でした。父親が難題を課すと、息子は嬉々として答え、それを軽くこなす。親子はこれ以上ない「最高の関係」を築いたのでした。でも、親子のこの関係、たとえ、「夢を共有している」とはいえ、普通の感覚からすると、あまりに密に過ぎる。これじゃまるで恋人同士の濃密さであり、さりとてそこには確実に上下関係が存在する。命令が下され、指示が守られるわけです。やっと、この関係の奇妙さに、息子が気づき始めるのが、21歳を越えてから。きっかけは、恋でした。好きな人ができると、父親との関係に微妙な変化が起こる。父親側は、その変化を即座に気付き、恋の邪魔を始めます。別れることを迫ります。それも説得ではなく、厳しい命令として。自立した青年なら、親の馬鹿げた要求に、断固立ち向かい、自分の夢の実現を図るでしょう。でも、モーツァルトには、そういう対応はできませんでした。それほど、親の洗脳が激しかったのです。「父の夢」と「子の夢」が、微妙にずれだし、「親の夢」が「子の現実」を蝕み始める。夢を育むという親子の共同作業から、親子の対立、さらにその激化がもたらす夢の破綻。「マンハイム・パリ旅行」は、まさにそういう家族関係を映し出しているのです。父と子の織り成すデュオ・ドラマ。『モーツァルト 父の夢、子の夢』という本が描き出す世界です。
モーツァルト・バー「キール」
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