――近江商人博物館30周年・中路融人記念館10周年――
【東近江】 東近江市五個荘竜田町のてんびんの里文化学習センター内にある近江商人博物館が今年で開館30周年を迎え、併設する中路融人記念館も10周年の節目を迎える。近江商人の「三方よし」の精神を伝える拠点施設、そして五個荘にゆかりある日本画家・中路融人の魅力を発信する記念館として、地域の歴史・文化を伝えてきた両館。周年を迎え、近江商人博物館の館長・上平千恵さんと学芸員の福井瞳さんに振り返ってもらい、現在の活動や今後の取り組みなどについて聞いた。
近江商人の里から文化を発信
■開館の経緯―
上平さん 近江商人博物館は1996年4月に開館しました。当時、五個荘町史編纂事業を終え、この地域の歴史などを語る多くの貴重な資料をどのように生かすかが大きな課題でした。その多くは五個荘地区で活躍した近江商人に関する資料で、地域学習の拠点となる新たな博物館の構想が立ち上がったのが始まりと聞いています。
福井さん 中路融人記念館は2016年4月にオープンしました。母親が五個荘出身で、この地に親しみを持っていた中路さん(1933~2017)は、地域の子どもたちの情操教育に役立てたいという思いから、多くの作品を近江商人博物館に寄贈されていました。これらの貴重な作品を常時鑑賞できる施設にしようと、センターの一室を改修して開館したのが始まりです。
上平さん 両館とも複合施設の一部であるため、博物館の存在を知ってもらうのに時間がかかりましたが、貴重な資料や作品の価値が「本物」であることから、今では国内外を問わず広く知られるようになりました。
■両館の特徴や魅力―
上平さん 近江商人の歴史文化が伝わる資料に加え、商いの中で学び育ててきた、売り手によし、買い手によし、世間によしの「三方よし」など、近江商人の教えとして残る教訓や言葉も大切に伝えています。このような文化や価値観の違いを越えて共に生きる知恵は来館者の関心も高く、研修の一環として大手企業や海外企業、若手起業家などにも多く利用されています。
福井さん 名所に加え、何気ない日常を切り取った風景が、中路さんの作品の魅力です。滋賀県民なら誰しも懐かしいと感じる湖国の原風景を多く残しています。少年時代に見て美しかった風景を追い求め、滋賀の風景を60年以上描き続けた画家はなかなかいません。作品を通して、気づかなかった滋賀の美しさを再確認させられます。
上平さん また、近江商人の多くは故郷を離れて商いを行う他国稼業でした。彼らが思い描いた故郷の情景は、おそらく中路さんの描いたような風景だったのではないでしょうか。より深く、この近江商人の里を感じていただけると思います。
■振り返り、思い出―
上平さん 近江商人博物館と五個荘の町並みを訪れた海外の来館者から、「この町並み全体が近江商人の精神を伝える教育施設になっている」と言われ、この地域の価値に気づかされたことがありました。こうした視点を大事にしながら、文化を伝えていこうと日々企画展を考えています。
福井さん 中路さんは重鎮的な立場でありながら、両館とも多くの企画展に深く関わっていただきました。
上平さん 湖畔で写生する中路さんの姿は今も印象に残っています。気さくで、どんな質問にも答えてくれる方で、コツを聞くと「肌で感じないといけない」と常に話されていました。現地では写真を一切撮らず、自分の足で訪れて目に焼き付けることを大切にされていました。「しんどいよ。でも、それができなかったら作家じゃない」と笑顔で話された姿が、中路さんをよく表していると思います。
■節目を迎え今後―
上平さん 本物の文化や芸術に身近に触れてもらう機会を、これからも継続して創出していきたいです。2023年には、東近江市内の博物館を一体的に管理・運営する博物館構想推進課が設置されました。それぞれの博物館が象徴するように、東近江市には豊かな文化が根付いています。近江商人博物館はその中核として、近江商人をはじめ、市の魅力ある歴史文化を企画展や講座、催しなどを通して広く発信していきたいと考えています。 (古澤和也)









