新春座談会
人類の生存を左右するといわれる地球温暖化問題。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第四次評価報告書によれば、過去百年で世界の平均気温が〇・七四度上昇し、最近五十年間の気温上昇傾向では、過去百年間のほぼ二倍になるなど、地球温暖化が加速している。県は昨年三月に、西暦二〇三〇年における温室効果ガス(注1)排出量を五〇%削減(一九九〇年比)するビジョンを策定したが、これを実現するには地域や家庭がどのように温暖化対策に取り組めばいいのかを、新春に滋賀県公館で語り合ってもらった。
【司会・文責=石川政実、写真=畑多喜男】
50%削減は革命
司会 まず地球温暖化の現状について内藤さんにうかがえますか。
内藤 日本では、すでに平均気温が微妙に上昇し続けており、その結果として、ゲリラ的な豪雨が発生し、洪水被害が相次いでいます。もう一つは、生態系です。日本でも、お米の穫れるところや、果物の産地であったところがどんどん北に移ってきています。県立琵琶湖環境科学研究センターが継続的に測っている琵琶湖の水温は、ずっと上がっています。北湖の湖底の深いところで、低酸素化が起こっているのは事実です。これには、地球温暖化が密接に関わっていると思われます。
冨田 太陽光発電システムを全世帯に設置へ
尾賀 炭素基金でCO2削減と新産業
司会 地球の気温が一度とか、二度上がると、どういう影響が出てきますか。
内藤 二度上がったら、もう地球上の生態系がどうなるか分からない。ですから、二度を超えないというのが、共通認識です。これから逆算すると、二酸化炭素(CO2)などの排出量を五〇%とか、八〇%とか削減することが必要になってきます。日本なら八〇%削減を超えるでしょうね。それは、人類がいまだかつて遭遇(そうぐう)したことがないレベルの革命です。
司会 県は昨年、二〇三〇年にCO2などの排出量を五〇%削減する「持続可能な滋賀社会ビジョン」を策定されましたが、現在の取り組みはどうですか。
嘉田 このビジョンのポイントは、二〇三〇年の目指すべき持続可能な滋賀の社会像を見える形で提言していることです。そして、その実現に向けた四つのプロジェクトを提案しています。一つは、持続可能な交通システムです。現在の車中心のライフスタイルから、歩いたり、自転車や鉄道、バスに乗ったりして、CO2の排出が少ない移動手段への転換を目指します。二つ目は地元の木材や農産物を活用する地産地消(注2)の確立、三つ目は家庭内でCO2削減の効果が見えるようにする環境配慮行動の促進、四つ目は県と経済界とが協働する「滋賀エコ・エコノミープロジェクト」の一環であるカーボンオフセット制度(注3)の創設です。
司会 滋賀エコ・エコプロジェクトの戦略本部員でもある尾賀さんにカーボンオフセット制度について、うかがえますか。
尾賀 環境と経済は、どうしても相反する部分があります。CO2削減のために化石燃料をなるべく使用しないとなると、経済活動を収縮させることにもつながるため、経済団体はいままで総論賛成、各論反対でした。そこで滋賀経済同友会や滋賀経済産業協会が中心となり、経済六団体に呼びかけて誕生したのが滋賀エコ・エコプロジェクトです。低炭素社会のニーズを前向きにとらえ、それをビジネスにすることで、環境によし、産業によし、経済活動にもよし、という社会を目指そうとするものです。
現在、県を始め、金融機関などが一緒になって、カーボンオフセット制度の仕組みづくりを進めています。その核になるのが、「しが炭素基金」です。これは県内の企業が排出したCO2に応じて資金を拠出するもので、今春に創設の予定です。基金の資金を、自然エネルギーの開発を始め、森林育成に取り組む企業や団体などに提供し、環境分野で新産業を起こしていきます。この前段階として現在、各企業に自らのCO2排出量を知ってもらうアンケート調査を実施しているところです。
司会 CO2などの排出量を五〇%削減するには、例えば東近江市ならどのような取り組みが求められますか。
内藤 当センターは、県のビジョンを描いた次の段階として、県全体を八ブロックに分け、それぞれの市町や地域コミュニティーがどのようにCO2削減を積み上げたらいいのかの試算を行いました。多分、日本では初めての試みです。また、「独立法人科学技術振興機構」から研究費を受け、東近江市や高島市をモデル都市に選定して、研究開発プロジェクトを進めています。東近江市では、近く市民とワークショップを持つ予定です。自分たちの将来ビジョンを自ら描いてもらって、「それをやるには、これだけの覚悟がいりますよ」と確認してスタートさせたいからです。
菜の花の東近江
冨田 内藤さんのお話のように、私の住む東近江市では、早くから先進的な環境保全の取り組みが行われてきました。その代表例が、滋賀県環境生活協同組合理事長の藤井絢子さんらによる「菜の花プロジェクト」です。旧愛東町(現東近江市)の住民らが平成十年から、転作田に菜の花を植え、収穫した菜種油を家庭や学校給食に使い、廃食油については回収・精製してバイオディーゼル燃料として再利用しています。こうした実績を踏まえて、同市では昨年八月、「ひがしおうみコミュニティビジネス推進協議会」コミュニティファンド部会を立ち上げました。これは市民から出資金を募って、太陽光発電システム(機器)を公共施設に設置し、それに伴う利益を地域通貨などで配分する仕組みです。私が副会頭をつとめる東近江市の八日市商工会議所でも、独自に太陽光発電システムの設置を検討しています。
司会 安土町の西の湖でヨシ刈りや自然観察会などのボランティア活動を行っている「東近江水環境自治協議会」顧問の丹波さんにCO2削減の取り組みをうかがえますか。
丹波 会の名称が「東近江水環境自治協議会」となっているのは、西の湖に重点を置きながらも、鈴鹿の山からびわ湖、大阪湾まで視野に入れた活動を目指しているからです。縦のつながりは東近江市ですが、横のつながりは西の湖に隣接する近江八幡市です。当協議会ではヨシを中心に、二つの取 り組みを進めています。一つは、ヨシ刈りです。西の湖には、滋賀県のヨシの六割強、約百十ヘクタールのヨシ原があります。ヨシには水環境保全とCO2削減の役割があるわけですが、最近は、ヨシが放置されてきたため、火をかけて燃やすようになりました。しかし、それではCO2削減にはならない、やはり刈り取って持ち出さないとだめだと、当協議会ではボランティアを募ったわけです。現在、年間で約六百人に来てもらっていますが、刈り取れる面積はせいぜい二ヘクタールに過ぎません。やはりボランティア活動には限界がある、それならヨシ刈りをビジネス化しようとつくった会社が(株)豊葦原会でした。
もう一つは、昨年十月に立ち上げた「エコによしスタイル研究会」です。ヨシ刈りに来ていただいた人にエコポイント(単位は一よし=百円相当)を発行し、生活を変える動機づけにしてもらおうという試みです。ヨシ刈りのほか、安土まで電車で来ていただいた人にも地域通貨の「一よし」を渡しますが、これにはヨシ刈りの後、西の湖の美しい夕日をみんなで見ることも対象に入っています。
丹波 ヨシ刈りをエコ通貨でビジネス化
嘉田 琵琶湖は温暖化の“小さな窓”
内藤 滋賀だけは自前で対応の社会に
司会 県のビジョンを達成するには、二〇三〇年までにCO2排出量を八百六万トン削減しなければなりませんが、今後の取り組みをお聞かせ下さい。
嘉田 家庭の中でCO2削減のライフスタイルを定着させようと昨年十一月にサイト「みるエコおうみ」(http://www.biwaco2.jp/)を開設しました。これは、家族レベルで、省エネのライフスタイルを取り入れれば、どのような効果があるのかを、パソコン上ですぐに分かるようにしたものです。さらに企業にも協力をいただいて、いろんな特典を用意しています。 また二〇三〇年のビジョンに向けては、確実に目標を達成するためのロードマップ(工程表)づくりと、温暖化対策の新しい条例化の検討をしているところです。
尾賀 今後は、「エコイノベーション先端県グリーンレイク構想」の実現に取り組んでいきます。構想は四つのテーマからなっていますが、一つ目は水問題です。飲める水をつくり出す技術が、なんとか滋賀県から発信できないかと考えています。二つ目は、新エネルギー問題。三つ目は、食と農です。地産地消も含めて、食と農の確立を目指します。四つ目は、暮らしです。この四テーマで、環境ビジネスの起業化を図っていきます。
滋賀県には、大学が多く、そこにはいろんなシーズ(技術の種)があります。これを取りまとめて、企業が新しい技術を起こすと同時に、人材の発掘と育成にも努めていきたいですね。このためにもインキュベーションセンター(注4)を設置して、ビジネスマッチングを推進しようと考えています。
冨田 八日市商工会議所も、省エネプロジェクトに取り組んでいるところです。東近江市には、太陽光発電システムを製造している京セラさんの滋賀八日市工場があります。同社とタイアップして、なんとか県の長期ビジョンに協力できないかと、当会議所では昨年九月に、「創エネ・エコプロジェクト起案委員会」を立ち上げました。旧八日市は約一万世帯ですが、そこに太陽光発電システムを設置しようとするものです。ただ京セラさんのシステムですと、販売価格が二百三十万円程度かかります。これをなんとか百五十万円まで下げてもらって、十年から十二年で減価償却できる製品ができれば、それを一万世帯に設置し、巨大な地域発電所をつくることが可能になるわけです。余った電力は企業に販売することを想定して基金をつくり、地域通貨を発行しようと考えています
ただ、市も前述の推進協議会で太陽光発電システムの地産地消を検討されて、全世帯(四万一千世帯)に同システムを設置する計画だとうかがっていますので、今後は市とのすり合わせが大事になるでしょう。
丹波 これからの取り組みは、三つです。一つは、CO2の排出量をいかに減らすかというよりも、吸収量をどう増加させられるかの活動です。具体的には、ヨシ原の手入れ面積を拡大することです。もう一つは、その手入れでどれだけの炭素量が吸収できたかを数値化することです。西の湖のヨシの年間産出量は、低く見積もっても千トンと推測しており、これで炭素量が何トン吸収できたかを数値で把握したいと考えています。三つ目は、エコによしスタイル研究会の生活を変える活動に企業の参加を呼びかけていくことです。
地域再生をかけて
内藤 滋賀県が全国に先駆けて五〇%削減を打ち出したのは、南アメリカの民話「ハチドリのひとしずく」(注5)のように、どんなに困難であっても、だれかがやらねばならないからです。琵琶湖もそうですが、地球温暖化がいったん顕在化しだしたら、人間の力で引き止めるのは、不可能です。水資源、食糧、エネルギー問題などが全部起こってきますから、これらに備えて、せめて滋賀だけでも自前で対応できる社会をつくっておかねばなりません。その結果として、地域は再生することになるでしょう。
嘉田 琵琶湖は、地球温暖化の「小さな窓」です。その周辺に縄文・弥生時代のライフスタイルから、京セラのような最先端技術までがコンパクトにまとまっている滋賀だからこそ、「懐かしいライフスタイル」を未来につなぐことができるはずです。この意味でも三つのつなぎが求められます。一つは、分野や企業などをつなぐことです。例えば、伊藤園が琵琶湖の保全のためのお茶を、セブン―イレブン・ジャパンが地産地消の弁当に取り組んでいただいていることなどです。二つ目は、世代をつなぐことです。昨年十月に西の湖がラムサール条約に追加登録されましたが、滋賀県の子どもたちが韓国に行ってアピールしてくれました。三つ目は、温暖化で一番影響受けるのがアジア、アフリカの人たちですから、先進国と途上国を、地球規模で世界をつなぐことです。そのモデルを、みんなで力を合わせて滋賀からつくろうと思っています。
(注1)温室効果ガス=地表から放出される熱を大気中に部分的に吸収し、地表へ再放出する気体の総称。京都議定書では、二酸化炭素、メタンなど六物質が温室効果ガスとして削減対象になっている
(注2)地産地消=地域で生産された農産物を地域で消費しようとする活動
(注3)カーボンオフセット制度=温室効果ガスの削減が困難な部分の排出量について、他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動に資金提供する制度
(注4)インキュベーション=設立して間がない新企業に地方自治体などが経営技術・金銭・人材などを提供し、保育、育成すること
(注5)ハチドリのひとしずく=南アメリカの先住民の民話で、火事で燃え盛る森には小さな「ハチドリ」がくちばしで一滴ずつ、しずくを落としていくという話














