ハンマー投げ・森本真敏選手の挑戦
◇竜王
「働いていたときよりギリギリの生活をしてるけど、人生ってお金じゃない。大事なのは、何をやって生きていきたいかだと分かった」。竜王町山之上在住の森本真敏選手(26)が、ハンマー投げ競技のみに打ち込むアスリートとしての道を極めようとしている。【櫻井順子】
子どもたちのために
先天性高音難聴の森本選手が、県立聾話学校高等部でハンマー投げに出合ってから約十二年。「第一回世界ろう者陸上競技選手権大会」(平成二十年トルコ)とパラリンピックより古い歴史を持つ聴覚障害者のオリンピック「第二十一回夏季デフリンピック」(平成二十一年台湾)で金メダルに輝き、世界王者の称号を手に入れた。
「金メダルに感激したが執着はしていないので、デフリンピック翌日には自分の動きがどうだったかを考えていた」。一回転で〇・五秒、四回転でも二秒というハンマー投げの世界は、〇・〇〇秒と雲をもつかむような感覚を研ぎすまさなければ記録が伸びず、身長・体重・腕の長さ・手の大きさなど個々の体格が異なるため、統一的なフォームの完成形が存在するわけでもない。
金メダル獲得以降、「これからどうしたいのか」を自問自答する中で、教員として二年間勤めた聾話学校を辞め、アスリートとして生きる道を選んだ。「将来は指導者になりたいが、(競技者として)中途半端なまま先生を続けても生徒のためにならないと思った。自分がもっと苦労しなければ」と、いばらの道も覚悟の上。
昨年四月から本格始動。自宅にウエートトレーニング室を設け、練習不足でたるんだ体を絞ることから始め、半年間は練習場のある大阪まで往復三時間かけて通った。「ダメもとで頼んでみよう」。地元の竜王町役場に相談し、野球少年時代を過ごした思い出の地でもある竜王町農村運動広場の使用許可を取り付け、ようやく集中できる環境が整った。
とは言っても、グラウンドが整備されているだけで、ハンマー投げ選手用の競技場にはほど遠いのが現状。高速回転の核で、ハンマーを投げる瞬間に背筋へ掛かる負荷四百キロ以上を支える軸足の下には、手作りのベニヤ板が敷かれている。「普通の選手なら孤独で寂しすぎる環境かもしれないけれど、高校のときから一人で練習してきたので気にならない」と、屈強な精神力にも磨きをかける。
ハンマー投げへ誘った張本人で、森本選手のすべてを熟知している恩師・松本智好さんの指導を仰ぎ続けながら、筑波大学四回生のときの記録会で出した自己ベスト六十三メートル二五の更新、さらに憧れの室伏広治選手と同じ舞台(日本選手権)で七十メートル超えによる三位以内入賞を目標に掲げる。
また、今年七月にカナダ・トロントで開催される「第二回世界ろう者陸上競技選手権大会」と、来年開催予定の「第二十二回夏季デフリンピック」の二連覇もかかっており、競技用靴の側面に“VV”と黄金色の刺しゅうを施して気持ちを高めている。
「全国大会の先にデフリンピックという世界へ通じる扉があることを知らない子どももいる。耳の聞こえない子どもたちは、聞こえない不安の中で生活しているため、自分が将来どんな風に大人になっていけばいいのか迷うことも多い。年齢を重ねれば分かっていくものだけれど、それでは遅いこともある。不安の解消とともに大きな夢を持つきっかけづくりと、耳の聞こえないちびっこアスリートたちを全国から集め育てる活動にも取り組みたい」。
スポンサー探しや遠征費のねん出など競技生活の継続には大きな苦労を伴う現況だが、生きる喜びを見つけた森本選手の表情そして言動には、一点の曇りもない。
森本選手の競技生活を応援する「森本真敏後援会」(山口英二会長)がこのほど発足し、会員を募集している。また、竜王町内各施設に箱を設置し、競技生活を支えるカンパも募っている。
詳しくは、メール(montahammer@yahoo.co.jp)で問い合わせを










