住民らが“新しい惣村づくり”
いま東近江市が面白い。地域が抱える課題を自らが地域の持つ資源を生かして解決していく取り組みが進んでいるからだ。ヒト・モノ・カネを地域内で循環させることで、地域がしあわせになる仕組みづくりである。例えば、誰もが安心して暮らせる拠点づくりを目指して、この四月に同市(旧愛東町)小倉町でオープンする「あいとうふくしモール」もこの一つ。そこで東近江で、分野を超えて繋がり、新しい価値を見出している方々にお集まり願い、夢ある逆転の発想を聞いた。
(司会・山口美知子、文責・石川政実、写真・畑多喜男)
東近江が面白い
山口 本日お集まり願った皆さんはそれぞれ、地域の課題を夢のある逆転の発想で、生業(なりわい)にしながら解決していく取り組みをされておられる方ばかりです。まずは、住み慣れた家で最期を迎える「在宅看取り」に取り組んでおられる医師の花戸さんから、お話をうかがえますか。

山口美知子(やまぐち・みちこ)氏 県職員を経て、平成24年より東近江市職員。現在、東近江市企画部緑の分権改革課主幹、滋賀地方自治研究センター理事、湖東地域材循環システム協議会(kikito)副事務局長。40歳。
花戸 平成十二年から、東近江市の永源寺診療所に勤務しています。それまでは大きな病院で、小児科医として働いていました。やはり病院にいる時は、いかに寿命を一分一秒延ばすかに価値を置いてきたわけです。しかし、この地域で実際に患者さん、特に高齢者の方や認知症を患った方を診ていると、いかに命を延ばすかではなくて、いかに住み慣れた地域で安心して生活を続けることができるか、というのが患者さんの思いだということをすごく感じるようになりました。
じゃあ、そのためになにができるかと考えた時に、その患者さんを中心にして、われわれ医療者をはじめ、介護者、行政、地域がみんなで高齢者や認知症の方をいかに支えていくか、という考え方に変わっていったのです。
最終的に寝たきりになっても、そのご本人も家族も地域の人も「できれば最期まで、この地域で過ごしたい」との思いを持っておられますから、それを支えていった結果、在宅看取りの形になっていきました。
これは、フォトジャーナリストの國森康弘さんの写真絵本(写真)でも紹介されている命のバトンであったり、お互いを支え合う心であったりとか、それがまた当事者だけでなくて、その地域の次の世代や、子どもたちにも受け継がれていくことだと思っています。
嘉田 花戸さんのように看取りを行っているお医者さんをもっと増やそうと、取り組んでいるところです。
冨田 それは医療費の抑制にもなりますね。
山口 「安心して住み慣れたところで最後まで」という花戸さんのお話は、野村さんの福祉モール構想とも繋がっていますね。
山 口「地域に息づく価値観の共有が大切」
嘉 田「あるもの探しで地域を生かす時代」
冨 田「もっと官民一体で地域課題解決を」

在宅医療を支える花戸貴司医師の営みなどを通して、看取りの現場を、写真家の國森康弘さんが情感豊かに活写した写真絵本『いのちをつなぐ「みとりびと」』(農山漁村文化協会刊、定価・消費税込みで全4巻セット7,560円)
野村 わたしは十数年の間、東近江市の愛東地区で、菜の花エコプロジェクト(注1)に仕事とNPO活動を通じて関わってきました。 このプロジェクトは、食とエネルギーの地産地消を通して地域の自立を図ろうとするものです。その過程の中で、地域で安心して暮らしていける仕組みをつくろうと三年半前に、地元の医療、福祉などの関係者が集まって話し合いを始めました。それが福祉モール構想になり、この四月には、愛東地区の小倉町で施設がオープンする運びになりました。
ふくしモールには、一つの敷地の中に、三つの施設が開設されます。一つは、高齢者の介護です。デイサービスや訪問看護ステーションで、宿泊の機能があります。運営は、NPO法人「結の家」があたります。二つ目は、地域の特産品を生かした甘味処や、パン工房、木工所などで、高齢者や障がいを持った人たちの働く場です。NPO法人「あいとう和楽」が運営します。もう一つは、地域の食材を活用して食を提供する農家レストランで、「(株)あいとうふるさと工房」の運営です。
これらの施設には、薪(まき)ストーブを入れて、これまで働く場に恵まれなかった人たちがつくった薪を買い上げて、冬場の暖房を賄います。また施設の屋根には市民共同発電所方式で太陽光発電システムを設置し、そこから出た売電益を地域商品券で返していくことや一部を寄付していただくことにも取り組んでいきます。
山口 植田さんの取り組みも、お年寄りの農業生産者に夢を与えるものですね。
植田 わたしは、「道の駅東近江市あいとうマーガレットステーション」(東近江市妹町)の一角にある、あいとう直売館の生産者代表をしています。この直売館は、十九年ほど前に立ちあげたものです。当時、お年寄りから「小遣い稼ぎの場所がない」との声があり、それなら地元で新鮮野菜などをつくって販売しようということになりました。また、「一人だけでは寂しい」と言われる人には、農産物を持ってきてもらって、団らんの場にと設けたのが、いまの直売所です。
当初は旧愛東町(現・東近江市)だけでしたが、いまは合併して東近江市という大きな市になった関係で、現在、会員は二百七十人に達しています。西は琵琶湖の端の旧能登川町の大中、そして東は旧永源寺町の箕川から、たくさんのお年寄りの生産者が来られて、直売所はそれはにぎやかです。
また昨年から、わたしがやっているナチュラル農園(資源循環型)で、学生さんや会社勤めの方を受け入れて、ブドウづくりなどを体験してもらっています。会社勤めの人は、退職したら、この地域の農園を借りて移り住みたいと言われるので、そのお手伝いをしているところです。
山口 ふくしモールでは薪を使うということですが、野々村さんも薪の事業に関わっておられますね。
花 戸「患者さんの思いは地域で最後まで」
野 村「暮らしや生業を支える福祉モール」
植 田「直売所はお年寄りの団らんの場」
野々村「薪割り通して身につける生きる力」
野々村 「東近江圏域働き・暮らし応援センター」は平成十八年から、障がいのある人や引きこもりの方など、いろんな理由で働く機会に出会えなかったひとの就労支援をしています。実際に働くステージさえあれば、自分で働いて、生きていく力を育んでいくことができるんです。
例えば、総務省から東近江市が受託した事業に、山のナラ枯れの木を整備し、伐採したナラ枯れの木を薪ストーブの薪にして、地域のエネルギーに変えていくのがありました。同事業は福祉ではなく環境分野でしたが、わたしたちは薪割りの仕事を請け負いました。これは、地元で薪ストーブを開発・販売している薪遊庭(東近江市鯰江町、村山英志代表)さんが買い取ってきたナラ枯れなどの間伐材を、働く準備をしている方が地元の若者のサポートを受けながら薪割りをする作業です。
実際に薪割りをやってみると、薪に大小の差があっても、大きな失敗がないので仕事に対して自信を持つことができます。薪割りを通して、生きる力を学んで当センターを卒業し、他元の企業に就職されていきます。特別なものでなく、身近な地域の循環システムの中に、障がいのあるひとたちの働き場があることが非常に重要なんです。
山口 皆さんが自分の役割をちょっとはみ出して活動されているおかげで、いろんなことが繋がっているような気がします。嘉田さんは、どのように受け止められましたか。
嘉田 四人の皆さんに共通しているのは、時代認識と地域性だと感じました。かつて右肩上がりの経済発展を遂げていたころは、新しいものをどんどん量的拡大していきました。
しかし、低成長のいまは、質的になにが自分たちにとって望ましいものなのか、あるもの探しをして、それを生かそうという時代になってきている。それが皆さんの共通の時代認識だと思います。
もう一つは、地域性です。植田さんの直売所には、二百七十人もの人が自分で作った農作物を持ってこられる。その仕組みは、きっと市町合併で広がったのだと思います。また、野村さんのふくしモールも、野々村さんの薪割りの就労も、地域性を生かす意味で、東近江には大変な潜在力があると感心させられました。
また、暮らしに根差した花戸さんのようなお医者さんが生まれるのも、永源寺の地域性だと思いますね。八十歳、九十歳の高齢の方が「花戸先生、はよ迎えに来てほしいわ。阿弥陀さん、待ったはるし」と話されるという。それって現代的でない、少し前近代的な死生観ですよね。これなんかも、東近江らしい。
冨田 地域性のお話ですが、野々村さんのところでは、薪割りの就労で成功されている。これも東近江市に豊かな自然があるからできるわけですよ。草津市では、こんなことはできません。
先日、薪ストーブの開発・販売をされている村山さんを訪問する機会がありました。薪を配達するのに手間がかかり、なかなか市場開拓が進まないというお話でした。それなら市内に百戸ぐらいを一つの単位としたモデル地区をつくって、各家庭に薪ストーブを購入してもらう。また薪は配達せずに、どこかに集配所をつくり、そこからみんなが家庭に持って帰る仕組みをつくろうと、市や商工会議所に提案していきたいと思います。
また菜の花館もずい分昔からありますが、昭和五十年代の石けん運動の素地があったからこそ、福祉モール構想へと発展したというのも、東近江ならではですね。
ふくしモールでは、レストランは株式会社でしっかりと稼ぎ、高齢者の応援拠点施設の二つはNPO法人で営利を目的としない、とメリハリをつけておられているのは非常に素晴らしいですね。四人の皆さんがやろうとしているのは、まさに現代の惣村(そうそん=注2)づくりですよ。

野々村光子(ののむら・みつこ)氏 精神障害者作業所(現通所授産施設)、京都障害者職業相談室を経て、平成18年から、東近江圏域働き・暮らし応援センターに勤務。精神保健福祉士。現在、同応援センターTekitoセンター長兼支援ワーカー。37歳。
行政への注文
山口 ところで、なにか行政に注文はありませんか。
花戸 実際に地域の人たちのお話を聞くと、医療を提供することだけを求められているのではなく、地域でその人らしく最期まで生活をする、それが求められている価値観だと思います。
家族の方も「最後は病院に預ければいい」という、いままでの価値観ではなくて、地域全体として「自分でご飯が食べられなくなっても、年老いて認知症になっても、この地域で最期まで生活しよう」という価値観を共有できることが大事なんです。そのような文化や価値観を共有する役割を行政が担って、われわれ医療者が参画できる場をつくっていただければと。
嘉田 ええ、花戸さんのご提案のように、県の保健所なりが地域から医療福祉を考える懇話会といった場を設けるのも一つの方法です。
山口 価値観を共有するというのは、深い言葉ですね。田舎に住んでいますから、よく法事などでお寺に行くのですが、実は亡くなったひとにも役割があって、みんなが集まる機会をつくってくれている。こんな文化も、共有できればと思います。
冨田 実は、わたしの好きな言葉は、「故郷(ふるさと)」なんですよ。生まれ育った地域の歴史や文化や伝統をしっかりと共有して守っていく。それは市場原理主義とは対極にある、リベラルな「保守」です。その辺りが今後の価値観になるような気がしますね。
野村 安心できる暮らしを支えるために、行政がいろんな制度をつくっても、制度から外れる隙間(すきま)が必ず出てきます。そこについては、なかなか行政では対応できない。このためにも、顔の見える関係の中で、様々な機能が連携して、支える仕組みをつくっていくことが必要です。
どうしても行政は縦割りですので、県や市の職員の方ができるだけ広く外に出て、住民の顔が見える環境の中で、どのような問題があるのか一緒に考える場ができればと思います。
山口 東近江市には、様々なまちづくりのキーパーソンたちが集まる魅知普請(みちぶしん)という会があります。確かにそんな場があるだけで、なにかが変わるような気がします。植田さんの直売所もそうですよね。
植田 わたしたちの直売所は、マーガレットステーションの一角にあります。あそこは行政から支援してもらって建った施設ですから、やはり維持していかねばなりません。このために、いまのスーパーのように全国から商品を仕入れて置いとけば、確かに売上げは上がるでしょうが、それをしたら地域性がなくなってしまう。そこで、なんとか頑張ろうと、夏場に売れ残る食材を使って、地元の生活研究グループの方々にお惣菜をつくっていただいて、明くる日に販売することを検討しています。また、ふくしモールには、レストランができますから、お互いが連携し合って、地元の食材を提供していきたい。いずれにせよ農業者が元気を取り戻す楽しい直売所を目指したいですね。
野々村 行政担当者に「支援だけを何十年も受けている方をそのままで良しとするのか、それともチャンスがあれば納税者に変えていくのか、どちらが本人にとっても市にとってもプラスと考えますか。支援はいらないから、仕事をください」と訴えます。わたしたちは、なんらかの理由でまだ働いておられない人を支援することを、応援団づくりと呼んでいます。行政に望む連携は、制度を使うのが一番最後で、それまでにやれることを一緒になんでも行うことです。
企業への就労をお願いする際も、わたしたちは「障がいのある人を雇用してください」と言って回ることはしません。「まず見学事業所になって下さい」とお願いをします。見学だけさせてもらえる企業が地域にいっぱいあれば、「障がいのある人が働くことは当たり前」という認識が広がります。また行政の方には、民間の仕事の面白い部分をもっと知ってほしいですね。
嘉田 確かに行政側の反省はこれまで、サービスなり、制度なりを供給側の論理で見ていたことです。そうじゃなくて受け手、需要側から見ることが大事なんです。ただ過剰な制度なり、仕組みなりというのは、結局、人のやる気をそいでしまうので、そこは黒子に徹してサポートしていくことが大切だと思っています。
山口 地域から課題を解決しようとする人たちは、行政がとてもむずかしいと思っていることも、いとも簡単に繋がって解決されるのには、本当に驚かされます。
冨田 だからこそ、もっと官と民が一体になって、問題を共有すべきなんですよ
嘉田 ええ、徹底的に問題共有をしたら、もう半分は解決が見えてきます。だからこそ問題共有のところに一番、エネルギーを費やすべきですね。
山口 本日は、どうもありがとうございました。
(注1)菜の花エコプロジェクト=菜の花を栽培し、なたねから油をしぼり、油かすは肥料や飼料にする一方で、食用に利用したなたね油を回収し、軽油代替燃料などに再生利用するもので、資源循環型社会の形成を目指す取り組みの一つ。
(注2)惣村=中世日本における百姓の自治的・地縁的結合による共同組織(村落形態)。












