知事と東近江地域4市町長コロナ後の新しい「地方創生」語る
【全県】 コロナ禍で、東京一極集中による社会的・経済的なリスクが浮き彫りになり、地方への関心が高まっている。そこで、三日月大造知事、東近江地域4市町の小椋正清東近江市長と小西理近江八幡市長、西田秀治竜王町長、堀江和博日野町長にコロナ後を見すえた新しい地方創生を聞いた。(各首長の取材を紙上対談として再構成しました)
三日月 危機を転機に新たな一歩
――コロナ感染拡大は今もなお収束が見通せないが、昨年はかつてない1年でした。
三日月知事 滋賀県が舞台の連続テレビ小説「スカーレット」と大河ドラマ「麒麟がくる」の2つのドラマが重なる千載一遇どころか、「万載一遇」のチャンスで盛り上げようとした矢先、経験したことのない新型コロナウイルス感染症が流行し、春先以降、無我夢中に県民とともに取り組んだ2020年だった。
コロナ禍により現代の社会システムが抱える課題が顕在化した。一方で、豊かな自然や文化を持つ滋賀県の価値が再評価されている。今年は、滋賀の魅力を発信してゆくことを考えたい。
――今後、都市集中から地方分散などの予想される変化は。
三日月知事 感染症だけでいうと、過密都市のリスクは明らか。また、人口減少はネガティブな面だけでなく、人と自然の関係を変えていくにはプラス面もある。
小椋東近江市長 東京一極集中はそう簡単には解消しないでしょう。若者にとって、文化が集積する都市は魅力的だ。淡い期待をするのでなく、戦略的にクオリティの高いまちを構築しないといけない。
小西近江八幡市長 舞台芸術のウェブ配信など、分野によっては変化の兆しがあった。従来は人を集めることが効率的で収益アップにつながっていた。これからはそうでなく、バーチャル空間で考えないといけない。行政のデジタル化が進めば、人が土地に縛られなくなる。
西田竜王町長 テレワークに期待するとすれば、地方でも仕事ができる仕組みができ、地域に人が定住する。そんな時代の変化は認識している。そのためにも、地方は住みたい人を受け入れる準備を進めないと。
堀江日野町長 コロナ後は、集中から分散へ進むのがトレンド。ただし、人口増を前提にした昭和のシステムでは対応できない。小手先の施策では問題解決できないだろう。長期的な視点に立ち、社会のシステムだけでなく、地域を形づくった自然・地勢、歴史・文化・慣習にもアプローチする必要がある。
小 椋 量から質への転換
――コロナ後の地方分散、新しい地方創生に取り組むうえで重要なキーワードは。
三日月知事 コロナ禍による危機を転機にすることが大事。特に「気候変動」への危機感が高まっている。2050年のCO2ネットゼロ社会の実現に向けた取り組みを加速化し、びわ湖発の「グリーン・リカバリー」に取り組みたい。地方が新たな「一歩」を踏み出すことで、世界を変えていきたい。
小椋東近江市長 人口減を受け入れ、量から質への転換、豊かさの価値観の変化だと思う。例えばクオリティの高いまちをめざすなら、文化と芸術は重要。昨春の機構改革では、文化を磨き上げ活用するため、文化財の所管を教育委員会から市長部局に移した。
自分たちの足元には歴史・文化・自然といった宝物があることを気づいてほしい。そこから郷土を大切にする心が生まれ、後世に伝えることになる。
小西近江八幡市長 「人と人のつながり」を大事にしたい。また、移住者を受け入れる懐の深いまちづくりが求められている。
伝統的な景観が残る旧市街地では、おしゃれな雑貨や飲食店、ゲストハウスが増えた。そこから地元の人との交流が生まれ、地場産業につながってゆくのを期待している。
西 田 コンパクトシティ化
西田竜王町長 持続可能な地域をつくるには、若い人に住んでもらわないといけない。
そこで、コンパクトシティ化構想を推進し、町の中心部に公共施設や商業施設、学校を集めてまちの魅力を高めるとともに、各集落のコミュニティを維持する方策も行う。
これと一体的に進めるのが町内の公共交通の充実で、AI技術を活用して中心部と各集落を結ぶ県初の予約制乗合ワゴン「チョイソコりゅうおう」実証運行を、県と県自動車販売協会連合会で連携して実施している。
堀 江 共創で自己実現のまち
堀江日野町長 10年のスパンで、3つのキーワードを掲げて種まきをする。1つ目は「持続可能性」。今ある様々な社会システムや仕組みを持続可能なものにする。2つ目は「多様性」。多様な立場にいる人の受け皿をつくり、その先にあるイノベーション(革新)を目指す。それは画一性ではなく多様性のあるところから生まれる。
3つ目は「共創」。今までは行政が地域課題を解決するのが当然だったが、税収も人も減る中で行政だけでは解決できない。このため公共的な課題に民間に入ってもらう。官はコーディネーターの役割を担い、民をうまくつなぎ合わせ、協力してもらう体制をつくりたい。
――滋賀らしさ、4市町の魅力を発揮できる素材は何か、そして今後どう生かすか。
三日月知事 自然でしょうね。山・川・里・湖。東近江地域なら蒲生平野、琵琶湖、食べ物。その中で育まれた祈りや農事の文化もある。また、地の利を生かして発展してきた産業が滋賀の素材だと思う。
これらの素材の魅力を生かす取り組みとしては、自転車で琵琶湖を一周する「ビワイチ」を推進している。ビワイチは一昨年、自転車を通じて世界に観光資源をアピールする「ナショナルサイクルルート」に選定された。
湖岸だけでなく、内陸にも立ち寄ってもらうビワイチ・プラスの活用も大いに進めたい。このほか、文化財では、没後1400年を迎える聖徳太子ゆかりの寺社仏閣めぐりなども、近江鉄道に絡めた周遊コースが考えられる。
また、滋賀の歴史の誇るべきは、多様な文化を受け入れることに寛容で貪欲だったこと。例えば渡来文化でいうと鬼室集斯(きしつ・しゅうし)や石塔寺、ヴォーリズは近江八幡市をはじめ各地に独創的な建築を残した。
今も東近江地域にはブラジルをはじめ多くの外国人の方々が居住している。一時的でないつながりを作れば、次の世代の幸せ、持続可能な発展につながる。周りの人を大切にし、結果的に自分や社会のためになる「利他のこころ」を持とうと呼びかけている。
小椋東近江市長 まずは、鈴鹿から琵琶湖までの多様性のある自然。この豊かな自然環境を生かし、継承するエコツーリズムとして「鈴鹿10座」の山々を選定し、トイレや駐車場を整備し、シートゥーサミットを開催している。
また、近畿の自治体で一番広い耕地面積もそう。現在は水田率が高く、これを付加価値の高い野菜栽培に転換するため、農家の安定収入と地場野菜の販路を拡大する地域商社の取り組みを進めている。
大阪圏と名古屋圏の中間に位置するため産業が集積している。この地の利を生かそうと、私は一期目初の予算で新幹線新駅調査費用を盛り込んだが、新駅設置の夢はまだ捨てていない。
さらに歴史の厚みが半端じゃない。古くは1万3千年前の縄文ビーナス。万葉集では、最も有名な相聞歌がここで詠まれ、歌人の山部赤人の終焉(しゅうえん)地とする寺社がある。聖徳太子の信仰、木地師文化、戦国時代の史跡、近江商人、ガリ版印刷などゴロゴロある。残念ながら市内に国宝がないので、初の指定をめざしてクオリティを上げたい。
小 西 食を成長戦略の軸に
小西近江八幡市長 成長戦略の軸は「食」だ。市内には、水郷野菜、近江牛、果物がある。ふるさと納税は近江牛の最大の宣伝になっている。
次に伝統文化。市内には左義長をはじめとする祭礼が比較的健全に維持されている。また、ヴォーリズなどの素材もたくさんあり、これらを資産として生かしていきたい。
西田竜王町長 近江牛とコメ、果樹などが特産の農業のまちだ。近江牛の歴史をさかのぼると、東京で初めてすき焼きの店(牛鍋屋)を出したのは、竜王町出身の竹中久次(1840年―1913年)。鈴鹿からの水は、コメづくりと肉牛肥育に適し、昔からビジネスモデルだった。こんなおいしいものを育む恵まれた環境に加えて、商業施設や医療施設、住宅などを増やして住みやすい地域をつくる。
堀江日野町長 伝統的な街並みを生かして現代版の日野商人のまちをつくりたい。アーティストや作家、パンなどの職人さんを募り、町家を店舗兼住宅として提供するプロジェクトを温めている。歩けばあそこには何かあるぞ、と言われるようなワクワクするまちづくりだ。
ただし、観光目的でなく、自己実現できるまちとして売り出したい。町内にはすでに成功事例があるので、住民のみなさんとストーリーを練っていきたい。
――新しい地方創生を進めるには、県と市町の連携が不可欠です。
三日月知事 住民に最も近い基礎自治体である市町を、県は広域自治体としてしっかりバックアップする。
とくに今年は近江鉄道の新しい枠組みをつくる重要な年だ。守りつないでゆくためにも連携は不可欠。
小椋東近江市長 近江鉄道をはじめとする公共交通はとくに県と一緒にやらないといけない。東近江地域4市町の枠組みでいうと、聖徳太子の没後1400年にあたる2022年の観光キャンペーンを共に取り組む。観光は物産につながり、物産は経済の象徴。広域的な観光から、大きな経済エリアをつくる必要がある。
――最後の締めくくりに、三日月知事から県民に新年のメッセージを。
三日月知事 新たな一歩で、行動する2021年にしたい。県民の皆様も、コロナや災いにまけず、人々と自らの「幸せ」のため、子どもたちや地球の「未来」のために、自分らしい「一歩」を踏み出す年にしてほしい。皆さん、一緒にがんばりましょう。
(聞き手・構成=高山周治、写真=古澤和也)











